
木下 昂也(Koya Kinoshita)
【続編】チリ・カリフォルニアクロームの低空飛行:日本は外れクジを引いたのか?
1年前の記事で、チリのカリフォルニアクローム産駒がまったく活躍していないと書いた。しかし、当時のチリ・カリフォルニアクローム産駒は79戦しかしておらず、統計的に信頼の乏しいものだった。
あれから1年が経ち、チリ・カリフォルニアクローム産駒の総出走回数は1000回を超えた。1000走もデータがあれば、それなりに信頼できる分析を出せるだろう。そこで今回は、1年前の通り魔的な記事を更新すべく、種牡馬カリフォルニアクロームの良い点・悪い点を数字から明らかにしていく。
※集計に使用した馬の一覧はページ下部にある。また、成績は現地時間6月9日時点のものである。
【通算成績】
1138戦101勝(8.9%)
【重賞成績】
17戦0勝(0.0%)
【勝馬率】
122頭出走
66頭勝ち上がり(49.2%)
現在、カリフォルニアクロームは獲得賞金額においてチリの種牡馬リーディングでTOP10に入っている。勝ち星でも上から7番目という好成績である。
しかし、これにはカラクリがある。カリフォルニアクロームは産駒の数が多いので、単純な数字の積み重ねでは優位に立てる。たとえば、産駒が100頭いる種牡馬と産駒が10頭しかいない種牡馬の成績を比べれば、どうしたって前者が上に来る。
そこで大事になるのが勝率である。カリフォルニアクローム産駒の勝率8.9%というのはどのような意味を持つのだろうか?
チリの有力種牡馬であるルッキンアットラッキー、コンスティテューション、シーキングザダイヤの過去3年における勝率と比較してみよう。ルッキンアットラッキーは2819戦341勝で12.1%、コンスティテューションは1297戦234勝で18.0%、シーキングザダイヤは3676戦375勝で10.2%である。つまり、勝率10%が良し悪しの境目になるだろう。カリフォルニアクロームは勝率10%を1.1%下回っている。
カリフォルニアクロームと同時期にチリで種牡馬入りしたフライヤー(Flyer)とドバイスカイ(Dubai Sky)とも比べる。フライヤーは334戦38勝で11.4%、ドバイスカイは376戦35勝で9.3%である。カリフォルニアクロームは同期種牡馬にも後塵を拝している。勝率が良いとは言えない。
チリ・カリフォルニアクロームのもっとも重い足枷となっているのが重賞成績である。2,3着はあるものの、これまで17戦して一度も白星がない。一方、フライヤーは重賞馬3頭で重賞5勝、ドバイスカイも重賞馬1頭で重賞2勝をあげている。勝率だけでなく、重賞成績においてもカリフォルニアクロームは同期2頭に後れを取っている。
次に、49.2%という産駒の勝馬率はどうだろうか?
参考までに日本の種牡馬と比較してみよう。netkeiba の産駒成績(JRA)によると、ディープインパクトの勝馬率は63.3%と図抜けているが、キングカメハメハは48.3%、ハーツクライは47.3%、ダイワメジャーは46.1%、ロードカナロアは42.7%となっている。つまり、カリフォルニアクロームの勝馬率49.2%は優秀と言えるかもしれない。
しかし、日本の競馬とチリの競馬では事情が大きく異なることを理解しなければならない。日本では年間およそ3500レース(JRA)行なわれるが、チリは年間およそ5000レースある。一方で、日本の年間生産頭数は約7000頭で、チリは約1500頭から2000頭である。つまり、馬に与えられるチャンスがチリのほうが圧倒的に多い。
チリの有力種牡馬の勝馬率を見ると、上述したルッキンアットラッキー、シーキングザダイヤ、コンスティテューションはいずれも70%を超えている。2020年に種牡馬リーディングを獲得したグランドダディーにいたっては80%に達している。フライヤー産駒は44頭出走して22頭が勝ち上がり(50.0%)、ドバイスカイは37頭出走して17頭が勝ち上がり(45.9%)となっている。カリフォルニアクローム産駒の勝馬率は際立った数字ではない。
最後に、チリ・カリフォルニアクローム産駒の馬場・距離別の成績を見ていく。
【馬場・距離別成績】
ダ1000m 26勝
ダ1100m 16勝
ダ1200m 13勝
ダ1300m 6勝
ダ1400m 5勝
芝1000m 25勝
芝1100m 3勝
芝1200m 1勝
芝1300m 5勝
芝1400m 1勝
産駒の勝ち鞍は1000mから1400mに限定されている。だからといって、チリ・カリフォルニアクローム産駒が短距離専門であるとは言えない。チリの番組構成は短い距離のレースが多く、マイル以上のレースは上のクラスに多い。そのため、成績が短距離に偏ってしまうのは仕方ない。
チリ・カリフォルニアクローム産駒が中距離以上で走るのかどうかは分からない。だが、距離が伸びるにつれて勝ち星が減っていることから、短距離のほうが得意なのだろう。
カリフォルニアクローム産駒の良い点として、ダートにも芝にも対応できることが挙げられる。101勝の内訳はダート66勝、芝35勝だが、これはダートでの出走回数が多いからであり、ダート1000mで26勝、芝1000mでも25勝をあげていることから、芝にも充分に対応可能である。
1年ぶりに分析して分かったのは、依然としてチリ・カリフォルニアクローム産駒は低空飛行を続けているということである。大きな期待と共に導入されたはずだが、内国産種牡馬のフライヤーや、アメリカGⅢを勝っただけのドバイスカイなど、現役時代の実績でははるかに劣る種牡馬よりも成績を残せていない。もし自分が生産者だとして、所有する牝馬をカリフォルニアクロームとフライヤーのどちらと種付けしたいかを尋ねられれば、フライヤーと即答する。
しかし、悪い点ばかりではない。1勝あげることを目標とする馬を生産するのなら、まずまずの種牡馬である。芝・ダートを問わず、短距離で新馬や未勝利を突破する馬を日本でも多く輩出できるかもしれない。
チリでのカリフォルニアクローム産駒は、2018年産馬と2019年産馬の2世代しかいない。すでにほとんどの産駒がデビューし、これから種牡馬成績が上向く可能性や、重賞・GⅠ馬が出る可能性は低い。今後カリフォルニアクロームの種牡馬としての評価を左右するのは、日本での結果である。
【集計に使用した馬(6月9日現在)】
Acaso Queris 2戦0勝
Aqui Vamos 6戦0勝
Arabian Law 4戦1勝
Arabian Moon 7戦1勝
Arctic 2戦0勝
Asi Soy Yo 14戦2勝
Astrum 12戦0勝
Aton Ra 14戦3勝
Avatar Aang 7戦0勝
Banksy 1戦0勝
Big Red 11戦1勝
Bonsai 6戦1勝
Butterfly Bay 5戦1勝
California Daddy 12戦2勝
California Fire 6戦1勝
California Game 6戦0勝
California House 7戦0勝
California King 3戦1勝
California Moon 10戦1勝
California Queen 6戦1勝
California Song 7戦0勝
California Spring 32戦4勝
California Storm 16戦2勝
California Thunder 19戦1勝
California Tiger 4戦0勝
California Warrior 36戦1勝
Californiacat 1戦0勝
Californian Spirit 17戦1勝
Cartera Vieja 22戦1勝
Cederic 2戦1勝
Cereza Dorada 11戦2勝
Chinchosa 16戦0勝
Chrome Royale 4戦0勝
Chromium 1戦0勝
Costa De La Luz 7戦0勝
Cugarat 23戦1勝
Dancer Chrome 7戦1勝
Datsusara 13戦0勝
Divina Guadalupe 11戦0勝
Don Cangrejo 20戦3勝
Dona Athenea 12戦3勝
Duquessa Del Jei 23戦0勝
Earth Song 1戦1勝
El Bingo 18戦0勝
El Ultimo Rockstar 1戦0勝
Elmita 2戦0勝
Eso No Se Cuenta 3戦0勝
Estephania 5戦1勝
Eternal Spring 3戦0勝
Exclusive Raider 26戦2勝
Full Of Crazy 1戦0勝
Gaman 2戦0勝
Gatito Mojado 20戦1勝
Ghost Raider 6戦0勝
Going Fast 5戦0勝
Golden Image 17戦4勝
Golden Lava 25戦1勝
Gracias Senorita 1戦0勝
Gran Abrazo 1戦0勝
Gran Canamito 18戦4勝
Great California 21戦1勝
Guerrero Max 3戦0勝
Heart Attack 3戦0勝
Heart Friends 5戦1勝
Hotel California 15戦4勝
Incredible 12戦2勝
Judge Room 7戦0勝
Kathya 11戦3勝
Kick Off 3戦0勝
King Tiger 9戦2勝
La Changuita 6戦0勝
La Gaffe 14戦0勝
La Pulguita 4戦0勝
Lady Chrome 1戦0勝
Lap Cat 22戦1勝
Laura Helena 2戦0勝
Lisa Ray 7戦1勝
Lucky Pegasus 14戦0勝
Lucky Storm 2戦0勝
Lucy Lou 17戦1勝
Majestic Chrome 16戦2勝
Maximo Antonio 2戦0勝
Mi Cutina 6戦2勝
Mr Style 5戦1勝
No Hago Escandalo 3戦0勝
Nordic Fighter 32戦4勝
Ocean California 18戦3勝
On The Music 2戦0勝
Palabras Serenas 5戦0勝
Papudo Chrome 13戦2勝
Pesyon 23戦2勝
Piel de Angel 11戦0勝
Power Denver 20戦0勝
Princesita Chrome 16戦2勝
Princess Katia 7戦0勝
Roca Ignea 11戦1勝
Rubia Chrome 3戦1勝
Rubio Natural 5戦0勝
Ruby Chrome 3戦0勝
Sahara Chrome 9戦1勝
Secret Night 4戦1勝
Selvatica 1戦1勝
Serenety 3戦0勝
Severus Snape 6戦0勝
Shocker 4戦0勝
Silver Prince 1戦0勝
Silver Spartan 5戦0勝
Sir Of Heaven 2戦0勝
Sunny California 6戦1勝
Tata Coco 22戦3勝
Te Ves Hermosa 2戦0勝
The Best Victory 1戦1勝
The Mighty Storm 4戦0勝
Toque De Oro 15戦1勝
Tu Me Quieres 2戦0勝
Ukiyo 2戦0勝
Una Buena Conversa 10戦1勝
Victory Chrome 39戦3勝
Viene A Vencer 1戦0勝
Wappo 3戦0勝
Wild California 10戦1勝
Wonder Woman 7戦0勝
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木下 昂也(Koya Kinoshita)
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