• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

こんな馬名が許されるなんて......有名人馬名を調べてみた

 ジャパン・スタッドブック・インターナショナルによると、日本で馬名をつける際の規則の1つとして以下のようなものがあります。


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(審査基準)

第4条 次の各号のいずれかに該当する馬名は、登録できない。

(6)奇きょうな馬名

イ 著名な人物等の名称と同じ馬名

ただし、歴史的に一般化している場合又は愛称若しくは名のみの場合は認めることがある。

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 つまり、日本では「オダエイイチロウ」や「ショウヘイオオタニ」、「バラクオバマ」といった有名人の名前を馬につけることができません。


 著名人っぽい名前の馬はいます。スピルバーグやファーガソンがそうです。これは、スピルバーグがスティーヴンではないから許されたのであり、ファーガソンがアレックスではないから認められたのでしょう。


 しかし、外国では比較的自由に人物名を、それもフルネームでつけることができます。たとえば最近では、松本俊廣氏が所有するコンドウイサミ(Kondo Isami)や、フランス・オークスを勝ったジョアンオブアーク=ジャンヌダルク(Joan Of Arc)がちょっとした話題になりました。


 そこで今回は、「有名人の名前をつけられた馬はどのくらいいるのか?」を調べました。世界の誰もが知っているような人名を Thoroughbred Horse Pedigree Query で検索しました。なお、フルネームという条件をつけます。名前だけ、苗字だけ一致しても有名人馬名とカウントしません。なぜなら、日本に種牡馬として輸入されたナダル(Nadal)は、テニスのナダルなのか、やっべぇぞのナダルなのか、行きつけのタコス屋の店長のナダルなのか、ナダルだけでは判別できないからです。



スポーツ部門


 野球界から登場するのは、まずは神様ベーブ・ルース(Babe Ruth)。ベーブルースと名づけられた馬は8頭います。母国アメリカで2頭、野球が盛んなベネズエラでも2頭いますが、もっとも活躍したベーブルースはブラジルのベーブルースでしょう。32戦して8勝をあげ、GⅠでも3着に入った実績があります。MLBの最多安打記録を持つピート・ローズ(Pete Rose)の名が与えられた馬も1頭います。バリー・ボンズという馬は計3頭います。スペースありのバリーボンズ(Barry Bonds)がアルゼンチンに1頭、スペースなしのバリーボンズ(Barrybonds)がベネズエラに2頭です。しかし、3頭ともホームランどころかヒットすら打つことなく引退したようです。ディレク・ジーターやアレックス・ロドリゲス、イチロー・スズキという馬名は存在しないものの、今後ベネズエラやドミニカで登場する可能性は充分にあります。もちろん、ショウヘイ・オオタニも。


■ 野球の神様ベーブルースはブラジルにもいる。



 今年、ブラジルのセリのカタログを見ていたら、バスケットボールの神様に出会いました。そう、マイケル・ジョーダン(Michael Jordan)です。2020年にサンタ・マリア・ヂ・アラーラス牧場で産まれたアドリアーノ産駒の牡馬がマイケルジョーダンと名づけられました。しかし、ブラジルでは1990年にすでにマイケルジョーダン1号が誕生していたようです。残念ながら競走馬としてはデビューしていません。ジョーダンと同じくドリーム・チームの一員だった、マジック・ジョンソン(Magic Johnson)を忘れてはいけません。マジックジョンソンの名を持つ馬は、ジョーダンをはるかに超えて9頭います。母国アメリカで1頭、ブラジルで2頭、その他ペルー、スウェーデン、インド、トルコ、エクアドル、ニュージーランドで1頭ずついます。大した活躍馬はいませんが、ペルーのジョンソンは96戦して11勝をあげました。バスケといえばコービー・ブライアントやレブロン・ジェームスも外せませんが、最近すぎるのか、まだ馬名には使われていないようです。※レブロン(Lebron)と苗字だけの馬はいます。


■ ブラジルにはマイケルジョーダンとマジックジョンソンが2頭ずついる。



 先ほど述べたように、ナダルはいます。ラファエル・ナダルはいません。しかし、ラファ・ナダル(Rafa Nadal)という馬名はチリに存在します。2005年に産まれたメディテレイニアン産駒の騙馬で、54戦11勝という成績を残しました。ちなみに、本家ナダルは全仏だけで13勝しています。ラファがいるなら、ロジャーがいないはずありません。ロジャー・フェデラー(Roger Federer)は2011年にブラジルで誕生しています。サイフォン産駒の牡馬ですが、競走馬としてデビューはしていません。ラファ、ロジャーときたらノバクも期待したいところですが、ノバク・ジョコビッチという馬名は見当たりませんでした。その代わり、アンディ・マレー(Andy Murray)をウルグアイとイタリアで発見しました。女子選手では、セリーナ・ウィリアムズ(Serena Williams)と名づけられた馬が3頭います。しかし、母国アメリカにはおらず、トルコ、ブラジル、ウルグアイで1頭ずつです。ウルグアイのセリーナは現役で走っており、これまで26戦走って2勝をあげました。こうして見ると、やはり南米における馬名の自由度の高さが分かります。


■ チリのラファナダル。優勝回数では本人に大敗。



 サッカー界には世界的スーパースターがウジャウジャいます。しかし、ミシェル・プラティニ、ディエゴ・マラドーナ、デイヴィッド・ベッカム、ジヌディーヌ・ジダン、リオネル・メッシ、クリスティアーノ・ロナウド、いずれも馬名には使われていません。有名どころでは、ネイマール.Jr(Neymar Jr)がベネズエラにいます。2016年にGⅠフエルサ・アルマーダ・ボリバリアーナ(ダ3200m)を優勝しました名馬です。現スペイン代表監督のルイス・エンリケ(Luis Enrique)もウルグアイにいましたが、6戦して勝ち星はあげられませんでした。フルネームでなければ、レヴァンドフスキ(Lewandowski)、エジル(Ozil)という馬名があります。サッカー選手は馬名に使われるよりも、馬主であることのほうが多いかもしれません。ロックオブジブラルタルを所有していたファーガソンを筆頭に、グリーズマン、ビダル、オドリオソーラなどが馬主をしています。


■ ネイマール.Jrはその名にふさわしくGⅠ馬となった。



 競走馬にとってもっとも大事なのは早く走ること。ならば、人類史上最速の男の名前を使いたいと思うでしょう。しかし、存命中の人物だし、比較的最近の人物だし、もしその名をつけてまったく走らなかったら恥ずかしいという思いが働き、なかなかつけられるものではありません。そんなことまったくお構いなしなのが南米です。ウサイン・ボルト(Usain Bolt)の名を授けられた馬は3頭おり、チリ、アルゼンチン、ブラジルといずれも南米です。気になる成績はというと、チリのボルトは36戦2勝、アルゼンチンのボルトは18戦1勝、ブラジルのボルトは未出走。あまりにも名前負けでした。余談ですが、アルゼンチンのボルトの半弟には、タントスアニョス(Tantos Años)というGⅠ馬がいます。この馬までボルトの命名を待てばよかったのに......。


■ アルゼンチンのウサインボルトは1勝馬。半弟には重賞4勝馬がいるのだが。



歴史部門


 近藤勇やジャンヌ・ダルクと、存命していないという点で歴史上の人物は馬名にしやすいのでしょう。「なんでこんな馬に俺の名前をつけたんだ、ふざけやがって!」と、あの世からクレームを言うことはできませんから。たとえば、マリー・アントワネット(Marie Antoinette)は20頭以上おり、マルコ・ポーロ(Marco Polo)は40頭近くもいます。


 アメリカ初代大統領のジョージ・ワシントン(George Washington)は5頭おり、アイルランドのジョージワシントンは英2000ギニーなどGⅠ4勝、ブラジルのジョージワシントンはブラジル最大の競走GⅠブラジル2勝を含むGⅠ3勝と、その名に恥じない偉大さを示しました。アメリカ大統領つながりでは、エイブラハム・リンカーン(Abraham Lincoln)と名づけられた馬が4頭います。そのうちアイルランドで産まれたデインヒル産駒のエイブは、2008年にカラ競馬場のGⅢグリーンランズSで2着に入りました。もう1頭、アメリカ大統領の名を与えられて重賞を勝った馬にジョン・F・ケネディ(John F Kennedy)がいます。ガリレオ産駒のこの牡馬は、2014年にアイルランドのGⅢジュヴェナイル・ターフSを優勝し、現在はアルゼンチンで種牡馬として供用されています。


■ 同じ名前、それも超有名人の名前で2頭もGⅠ馬が出るとは珍しい。


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