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アグネスゴールド、2度目のチャンスを得た南米でまばゆい輝きを放つ

この記事は、アルゼンチンの競馬メディア『トゥルフ・ディアリオ(Turf Diario』が2021年3月16日に掲載した "Agnes Gold deslumbra en Sudamérica, donde encontró su segunda oportunidad"を翻訳・一部改変したものになります。

 

アグネスゴールドは日本とアメリカで失意の種牡馬生活を過ごした後、ブラジルに渡って才能が爆発した。残念ながら、現在は種付け生活から退いている。


 今日の種牡馬市場において、泣きの1回は滅多に与えられない。これは南米だけでなく、世界の競馬界で言えることである。種牡馬は種牡入りした直後から成功しなければならない。なぜなら、どんなに年月を経て優秀な産駒の数が増えようとも、その間に種牡馬競争の山はどんどん高く、あまりにも高くなっているからである。


 アグネスゴールド。様々な場所で種付けを行ない、つい最近種牡馬を引退したばかりである。ここわずか半年の間にブラジル、ウルグアイ、アメリカでGⅠ競走の勝ち馬を輩出し、アルゼンチンでも産駒の活躍が目立つ。そんなアグネスゴールドが歩んだ道程は、競馬界でもほとんど類を見ないものだろう。


 日本産まれ、23歳、そして、偉大なるサンデーサイレンスの息子。アグネスゴールドは先週日曜日、リオ・デ・ジャネイロにあるガヴェア競馬場でセンセーショナルな連勝を成し遂げた。ジャネールモネイ(Janelle Monae)が牝馬3冠競走の2冠目を、クーロエカミーチャ(Culo E Camicia)が牡馬3冠競走の2冠目を優勝したのである。また、1月17日のオンラレアル(Honra Real)によるウルグアイ・マローニャス競馬場のGⅠシウダー・デ・モンテビデオの勝利と、昨年10月3日の王者イバール(Ivar)によるアメリカ・キーンランド競馬場のGⅠシャドウェル・ターフ・マイル・ステークスの勝利も記憶に新しい。



 アグネスゴールドは日本で優れた競走馬だった。社台ファームの生産で、馬主は渡辺孝男氏。2,3歳時に7戦しただけだが、デビューから無傷の4連勝で京都競馬場で行なわれたGⅢきさらぎ賞と、中山競馬場で行なわれたGⅡスプリングSを優勝した。阪神競馬場のGⅢ鳴尾記念で3着を最後に現役を引退した。


 2004年から2006年にかけて、アグネスゴールドは日本のレックス・スタッドで種牡馬入りした。しかし、充分な種付け機会に恵まれなかった。2007年からは、アメリカのラムホルム・サウス牧場に移動した。だが、そこでも活躍することはできなかった。ファピアノと同じ牝系を持つアグネスゴールドの馬生が上向いたきっかけは、ブラジルを拠点とするスウェーデン人馬主のステファン・フリボルグ氏が、エストレーラ・エネルジーア牧場のために彼を購入し、ブラジルに輸入したことである。


※補足/ステファン・フリボルグ

ブラジル拠点のスウェーデン人馬主。2010年ドバイWCを制したグローリアヂカンペアン(Glória De Campeão)の馬主でもある。


 生産者はあまり見栄えのしない、種牡馬として失格の烙印を押されたこの馬に何を見たのだろう? 残念ながら、フリボルグ氏はすでにこの世を去っており、この謎を解明することはできない。おそらく直感と知識によるものだったのだろうが、アグネスゴールドはついに素晴らしい種牡馬となった。南米における初年度産駒から活躍馬を輩出し、失敗した種牡馬から成功した種牡馬へと評価を一変させてみせた。これはほとんど奇跡と言える。


 2009年に産まれたブラジル初年度産駒の代表馬には、牝馬のアビジャン(Abidjan)がいる。アビジャンはブラジル牝馬3冠の第3戦目GⅠゼリア・ゴンザーガ・ペイショット・ヂ・カストロを勝利した。また、アントネッラベイビー(Antonella Baby)は牝馬3冠第1戦目のGⅠエンヒキ・ポソーロの勝ち馬であり、エネルジーアエレガンチ(Energia Elegante)はGⅡルイス・フェルナンド・シルニ・リマとGⅢフランシスコ・V・ヂ・パウラ・マシャードを制するなど、リオ・デ・ジャネイロでもっとも優れた2歳馬の1頭となった。



 これ以降も、アグネスゴールドは限られた産駒数にもかかわらず、常に輝きを放った。エネルジーアフリビー(Energia Fribby)、サイレンスイズゴールド(Silence Is Gold)といったGⅠ馬に加えて、エネルジーアグシュタード(Energia Gstaad)、エネルジーアガローア(Energia Garoa)など、数多くの優秀なサラブレッドを輩出した。2015年、フリボルグ氏が亡くなってエストレーラ・エネルジーア牧場が解散すると、アグネスゴールドはヒオ・ドイス・イルマノス牧場を中心とした生産者連合に購入された。


※補足 / ヒオ・ドイス・イルマノス牧場

アルゼンチンを拠点とし、ブラジルとアメリカにも拠点を持つオーナーブリーダー。頭文字から RDI と略される。アメリカのボン・シャンス牧場は姉妹牧場にあたる。


 ヒオ・ドイス・イルマノスの統括を担うベト・フィゲイレーロ氏は次のように語る。「シンジケートが組まれたとき、アグネスゴールドはすでに16歳になっていたが、私の目には素晴らしい馬に映った。私はアグネスゴールドをブラジルでイコン的な種牡馬となったガディール(Ghadeer)と比較するし、アルゼンチンのサザンヘイロー(Southern Halo)やバーンスタイン(Bernstein)のレベルに達していると思う。もちろん、多くの種付け機会に恵まれ、牧場の後押しで良質な繁殖牝馬を回してもらったおかげもあるが。アグネスゴールドの種牡馬生活は簡単ではなかった。彼は健康状態が優れず、我々は3年種付けできれば御の字と考えていた。幸運にも、その期間は延びてくれた。残念ながら、アグネスゴールドは2020年に感染症にかかって生殖機能に問題が生じたため、種付けができなくなった。これ以上種牡馬を続けることはできない。残念である」


※補足/ガディール

リファール産駒のフランス産馬。ブラジルで890頭もの産駒がデビューし、60頭を超える重賞馬を輩出した、ブラジル競馬界を代表する種牡馬。代表産駒にファルコンジェット(Falcon Jet)、インディアンクリス(Indian Chris)など。



 アグネスゴールドが晩年に残した産駒の活躍は目覚ましい。イバール(Ivar)、ヘウェア(Hevea)、マイスキボニータ(Mais Que Bonita)、オンラレアル(Honra Real)、アブダビ(Abu Dhabi)、オリンピックジョンスノー(Olympic Johnsnow)、ナタン(Nathan)、そして前述のジャネールモネイ(Janelle Monae)とクーロエカミーチャ(Culo E Camicia)。彼らはすべてGⅠ馬である。


 ブラジル・スタッドブックによると、アグネスゴールド産駒は506頭が登録されており、399頭が競走年代に達している。うち246頭(61.7%)が競走馬としてデビューし、186頭(46.6%)が勝ち星をあげた。ブラックタイプ競走を制した馬は31頭(7.8%)いる。これらの数値は、種牡馬アグネスゴールドがいかに偉大であったかを示すものである。


※補足/ロイ

ファピアノ産駒。チリでは1991年から1999年にかけてリーディングサイヤーとなり、アルゼンチンでは2001年と2002年に最優秀種牡馬に選出された。ブラジルでは1997年産の1世代だけにもかかわらず、11頭の重賞馬、4頭のGⅠ馬を輩出した。南米を代表する大種牡馬。


 最後に、サンデーサイレンスとその子供たちの活躍を述べる。アグネスゴールドと同様、ハットトリックも南米大陸で強い輝きを放った種牡馬である。現在、南米でサンデー系の血を持つ馬は少ないものの、例えばチリでは、日本GⅡの勝ち馬でディープインパクト産駒のヒラボクディープが、2019年からマトリアルカ牧場で種牡馬として供用されている。


 アグネスゴールドの産駒はまだ現役の競走馬として走っている。その中から新たなチャンピオン・ホースが登場するだろう。捨てられた種牡馬から、唯一無二の偉大なる種牡馬へ。これがアグネスゴールドの物語。語らずにはいられない。


※補足/引退後のアグネスゴールド

感染症によって生じた問題は生殖に関わる機能だけで、その他はいたって健康。長い種牡馬生活から解放された日々を楽しんでいるとのこと。



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木下 昂也(Koya Kinoshita)

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Koya Kinoshita

スペイン語通訳

スペイン競馬と中南米競馬を隅々まで紹介&徹底解説する『南米競馬情報局』の運営者です。

全国通訳案内士というスペイン語の国家資格を所持しています。

東京在住のインドア派。モスバーガーとミスタードーナツが好きです。

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