• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

アルゼンチン牝系の馬は本当に早熟なのか?

 アルゼンチン牝系は早熟である。


 そんな意見を耳にすることも多いのではないでしょうか? 以前わたしも、「アルゼンチン牝系の馬は古馬GⅠでことごとく惨敗している。GⅠで狙うなら3歳まで」という記事を書きました。


 しかし、本当にアルゼンチン牝系って早熟なの? イメージだけで言ってない? という根本的な疑問を抱きました。そこで今回、アルゼンチン牝系は本当に早熟なのか? という疑問に答えます。


 方法としては、2010年産~2017年産(現3歳)のアルゼンチン牝系の馬(母がアルゼンチン産馬)を対象に、2~3歳の成績と、古馬になってからの成績を比較しました。成績は6月26日時点での中央競馬のみで、地方・海外は除きます。また、出走取消はカウントしませんが、競走中止は含めました。数値に関して、小数第二位を四捨五入しています。漏れ、誤植などがあった場合は、誤差ということでご容赦ください。ページ下部に、今回対象となった馬のリストを載せています。


 結果は以下のようになりました。


【2~3歳の成績】 459戦75勝(3着以内:165回) 勝率 :16.3% 複勝率:35.9%


【古馬の成績】 270戦27勝(3着以内:79回) 勝率 :10.0% 複勝率:29.3%


 数字を見た感想ですが、うーん、何とも言えません。もしアルゼンチン牝系の馬が早熟であるならば、もっと明確な傾向が、つまり、2~3歳時の成績が古馬の成績を引き離していなければならないはずです。しかし、数値を具体的に解き明かしていくと、多くのことに気づきます。


 まず、2~3歳の成績を見ていきましょう。計75勝のうち、新馬・未勝利戦の勝ちが42勝もあります。残りの33勝は、サトノダイヤモンド(6勝)、ダノンファンタジー(5勝)、スミレ(4勝)、レシステンシア(3勝)など、特定の馬が稼いでいます。つまり、新馬・未勝利クラスは勝てるものの、それ以降はパッとしない馬が圧倒的に多いということです。仕上がりの早い馬、あるいは、成長力に乏しい馬が多いと言えるかもしれません。


 しかし、これはアルゼンチン牝系の馬に限らず、どの血統にも当てはまることだと思います。新馬・未勝利戦というのは、出れば出るだけ相手のレベルがどんどん下がるので、いつか勝てる確率が高いからです。調べてはいませんが、在来血統だろうと、アメリカ血統だろうと、ヨーロッパ血統だろうと、新馬・未勝利戦の勝ち星がもっとも多いはずです。


 今度は古馬の成績を見てみましょう。アルゼンチン牝系の馬は古馬になってから計27勝しています。しかし、古馬になってから3勝以上した馬は、リナーテ(5勝)とピオネロ(3勝)の2頭しかいません。つまり、新馬・未勝利クラスを勝ち上がっても、せいぜい1勝クラスを勝てるのがやっとであり、古馬になってから強くなるという傾向は見られません。ちなみに、3着以内数を見ても、リナーテは9回、ピオネロは16回です。この2頭だけで古馬成績の3分の1を担っています。仮にリナーテとピオネロがいなければ、古馬の成績は以下のようになります。


【リナーテとピオネロを除いた古馬の成績】 223戦19勝(3着以内:54回) 勝率 :8.5% 複勝率:24.2%


 2~3歳の成績と古馬の成績の差は、勝率で約8%、複勝率で約15%も開いてしまいました。こうなれば、早熟傾向にあると言えるほどの差がついたと言っていいのではないでしょうか。

 続いて、これは上記2つの融合になりますが、2~3歳時に3勝以上した馬は7頭いる一方、古馬は上述の2頭しかいません。古馬になって能力を出せなくなった、思ったほど成長できなかった、もしくは、成長力のある馬に能力を交わされてしまったということではないでしょうか。


【まとめ】 ◆ 数字だけを見れば、アルゼンチン牝系が早熟とは言い切れない。 ◆ 2~3歳時の成績は新馬・未勝利の勝ち星がほとんど。 ◆ 古馬の成績は特定の馬(リナーテとピオネロ)が担っており、この2頭がいなければ、2~3歳の成績が相当優位になる。 ◆ 古馬になってから複数回勝利した馬は、2~3歳時に複数回勝利した馬と比べて圧倒的に少ない。


 アルゼンチン牝系は早熟であると断言はできません。2~3歳時よりも古馬になってからのほうがレースに勝つのが難しいという当然に加えて、アルゼンチン産の繁殖牝馬は頭数が限られており(約60頭、60頭/7000頭≒1%)、断言するにはサンプルが足りません。しかし、以上の結果から、「アルゼンチン牝系の馬は早熟傾向が強い」と述べることは可能であると考えます。


 しかし......!


 ここで別の、むしろこちらのほうが重要な疑問が生まれます。


 なぜアルゼンチン牝系の馬は早熟傾向にあるのか? 海外のアルゼンチン牝系はどうなのか? たとえば、ブループライズは6歳時にBCディスタフを勝ち、トムズデーターも7歳にしてなおアメリカ・ダート路線の主役を演じています。では、どうして日本のアルゼンチン牝系だけが早熟傾向なのか?


 次回はこの部分を考察します。


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木下 昂也(Koya Kinoshita)

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