• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

アルトゥーロ・ビダル:世界一サッカーの上手いダービー馬主

写真:@kingarturo23

https://twitter.com/kingarturo23/status/1149387346464452608



 もしあなたが海外サッカー好きならば、アルトゥーロ・ビダルがどんな選手かを説明する必要はないだろう。ユヴェントス、バイエルン・ミュンヘン、FCバルセロナ、インテル・ミラノといったヨーロッパの名門クラブで中心選手として活躍し、チリ代表でも100試合以上に出場している超一流のフットボーラーである。刺青だらけのイカつい見た目のとおり、ビダルのプレースタイルはずばりファイターである。バイエルン・ミュンヘンに所属している時、当時の監督だったカルロ・アンチェロッティは「もし戦争に行くとしたら、ビダルを連れていく」と述べている。


 人を見た目で判断するなかれ。危険な香りをプンプン放つビダルだが、実は大の馬好き・競馬好きである。小さい頃の夢は、競走馬の生産者になるか、サッカー選手になるかの2択だったそうだ。ビダルのSNSには馬と一緒に撮った写真がたびたび載せられており、とてもファイターとは思えない幸せそうな表情を浮かべている。オフシーズンや代表戦でチリに帰ると、時間を見つけては自分が所有する馬と触れ合っている。


「俺は馬から学んだ。強さというのは、高潔さと誠実さによって増すのだと」


 サッカー界には競馬好きが多い。アレックス・ファーガソン、マイケル・オーウェン、アントワーヌ・グリーズマンなどが競走馬を所有している(していた)のは有名な話である。自分の所有する馬の様子を見たいがために、コロナで閉鎖されているマルセイユ競馬場に不法侵入し、1500ユーロの罰金を喰らったエムベイェ・ニアンという愛すべきバカもいる。


 アルトゥーロ・ビダルは、2008年から『アルビダル』の名義でサラブレッドを所有するようになった。2020年11月28日時点での "El Turf" のデータによると、アルビダルはこれまで178頭の馬を所有した(※所有馬一覧はページ下部に掲載)。同じく競馬好きのディエゴ・マラドーナが所有したのが計13頭だったことを考えれば、もはや馬主業が本業と言っても過言ではない数字である。


ビダルは単に馬を持つだけでなく、所有馬で結果を残している。2010年以降のアルビダルの成績は以下のとおりである。


【アルビダルの成績(2010年~2019年)】

・2010年 29勝 馬主リーディング12位

・2011年 35勝 馬主リーディング12位

・2012年 43勝 馬主リーディング10位

・2013年 54勝 馬主リーディング5位

・2014年 50勝 馬主リーディング5位

・2015年 65勝 馬主リーディング3位

・2016年 65勝 馬主リーディング3位

・2017年 44勝 馬主リーディング7位

・2018年 40勝 馬主リーディング8位

・2019年 49勝 馬主リーディング7位

※数値はチリ・スタッドブックを参照した。


 通算500勝に迫ろうかというこの数字の中には、もちろん重賞での勝利も含まれている。今回はアルビダルの所有だった2頭の代表馬について紹介する。



ソーノビアンコネーロ(Sono Bianco Nero)


 1頭目が、シーキングザダイヤ産駒のソーノビアンコネーロである。同馬は2014年10月4日、チレ競馬場3冠競走の第2戦目にあたるGⅠグラン・クリテリウム・マウリシオ・セラーノ・パルマを制した。ソーノビアンコネーロという馬名は、イタリア語で「私は白と黒である」を意味する。ビアンコネーロはセリエAのユヴェントスの愛称であり、したがって、「私は白と黒である = 私はユヴェントスのファンです」を意味する。ビダルは2011年から2015年までユヴェントスに所属していたので、この名前がつけられたのではないだろうか。ソーノビアンコネーロは37戦7勝(GⅠ1勝、重賞3勝)という成績を残した。


◆ グラン・クリテリウム・マウリシオ・セラーノ・パルマ



イルカンピオーネ(Il Campione)


 2頭目が、スキャットダディ産駒のイルカンピオーネである。馬名はイタリア語で「ザ・チャンピオン」を意味する。名前のとおり、イルカンピオーネはチリ競馬の王者に君臨した。2014年3月10日にサンティアゴ競馬場の芝1200mで行なわれたデビュー戦を勝利すると、4月13日のGⅢコテホ・デ・ポトリージョス、5月30日のGⅡクリアドーレス・マチョスと重賞を連勝し、一躍世代の主役に躍り出た。6月20日の2歳GⅠは2着と敗れたが、3歳初戦となった8月3日のGⅠポージャ・デ・ポトリージョスで、見事にGⅠ初制覇を飾った。


◆ ポージャ・デ・ポトリージョス



 ここからイルカンピオーネのGⅠ連勝街道が始まる。次走9月28日のGⅠナシオナル・リカルド・リオン、10月31日のGⅠエル・エンサージョも制し、GⅠ3連勝を達成。12月6日にチレ競馬場で行なわれた同競馬場最大の競走GⅠセントレジャーでは、スタート直後に馬が躓き、騎手が落馬して競走中止となってしまい、不運な形でGⅠ連勝がストップしてしまう。しかし、翌年1月2日のダービー前哨戦GⅡコパ・ジャクソンを勝利すると、2月1日にバルパライソ競馬場で行なわれたGⅠエル・デルビー(チリ・ダービー)も勢いそのままに優勝した。アルトゥーロ・ビダルは27歳という若さで、一国のダービーオーナーになったのである。


◆ ナシオナル・リカルド・リオン


◆ エル・エンサージョ


◆ セントレジャー(4番スタート直後に落馬)


◆ エル・デルビー



 ダービー制覇の翌日、ビダルは自身のフェイスブックで「夢が叶った!!!!」と喜びを露わにした。


 ダービー制覇後、イルカンピオーネはレーンズ・エンド・ファームへ売却され、アメリカのチャド・ブラウン厩舎に移籍した。2015年6月13日にベルモントパーク競馬場で行なわれたGⅢポーカーSでアメリカ・デビューを果たし、3着に入った。だが、このレースを最後に現役を引退することになった。現在はアルゼンチンのエル・パライソ牧場で種牡馬をしている。イルカンピオーネの通算成績は11戦8勝(GⅠ4勝、重賞7勝)。


 悲願のダービーオーナーとなっても、ビダルの競馬熱は止まらない。武豊騎手が「ダービーを勝ったら、もう辞めてもいいじゃなくて、もう1回勝ちたくなる」と言うように、むしろ過熱しているようだ。最近はチリだけでなく、アメリカでも競走馬を所有している。アルビダルの勝負服をアメリカのGⅠ競走で見られる日もそう遠くないだろう。


 アルトゥーロ・ビダルはダービーを勝った。だが、チャンピオンズ・リーグとワールドカップは手にしていない。ダービー馬主&世界一のサッカー選手の称号は、彼にしか成し遂げられないであろう大記録である。



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木下 昂也(Koya Kinoshita)

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