• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

ウィンヒアー:戦術、最後方


ウィンヒアー(Win Here) 写真:El Turf https://elturf.com/ejemplares-fotos?id_ejemplar=331630&tipo_vista=

 直線一気のブロードアピール、大逃げのツインターボ、最少馬体重のメロディーレーンなど、個性的な馬は人気になる。だが、個性を持った馬よりも人気を集めるのが、個性的で強い馬である。だから、ウィンヒアー(Win Here)はチリのアイドルホースとなったのである。


 ウィンヒアーは、2013年10月4日にチリのエル・シェイク牧場で産まれた。父ブレスレスストーム、母アサレイア、その父キングアレックスという血統。半兄のストームアレックス(Storm Alex)は、2010年の2歳GⅠアルベルト・ビアル・インファンテを含む重賞4勝をあげた。叔母のアレンタドーラ(Alentadora)は、1994年にGⅠタンテオ・デ・ポトランカスとGⅠ1000ギニーを制し、最優秀ダート2歳牝馬に選出された。また、叔父のアウグーリ(Auguri)も、1995年にタンテオ・デ・ポトリージョス、2000ギニー、セントレジャーとGⅠを3勝し、その年の最優秀ダート2歳牡馬と3歳牡馬に輝いた。ウィンヒアーは良血馬である。


 しかし、競走馬としての始まりは、近親が2歳GⅠの勝ち馬だというのに、良血馬にはふさわしくないものだった。2016年5月20日、ウィンヒアーはサンティアゴ競馬場の芝1300mでデビューしたが、勝ち馬から4馬身差の4着に敗れた。


 初勝利をあげたのは、3歳になった9月25日の3戦目、サンティアゴ競馬場の芝1600mである。だが、時すでに遅し。3歳GⅠ戦線には間に合わなかった。チリの3冠競走を構成する、GⅠエル・エンサージョ、GⅠセントレジャー、GⅠエル・デルビーのいずれにも出走できなかった。


 ウィンヒアーは芝のレースを出走しては、勝ったり負けたりを繰り返すパッとしない馬だった。しかし、2018年に入って最初の転機が訪れる。チレ競馬場のダート1600mに出走し、8馬身差の圧勝をおさめたのである。このブレスレスストーム産駒はダートに活路を見出した。


 4歳も終わりに近づいた2018年5月5日(※南半球は7月加齢)、ウィンヒアーはダート古馬最強馬を決める戦いGⅠイポドロモ・チレでGⅠ初出走を飾った。前走のリステッド競走で2着と良い競馬を見せたことから、2番人気に支持された。結果的には最下位に降着となってしまうが、GⅠの大舞台で5着入線と好走した。続けて、芝2000mのGⅠクルブ・イピコ・デ・サンティアゴに出走した。しかし、勝ち馬から9馬身も離された6着に敗れた。これではっきりした。ウィンヒアーはダート馬である。


 2018年7月、ウィンヒアーは5歳になった。ここで2度目して最大の転機が訪れた。ロドリゴ・サンチェス調教師から、クリスティアン・ウルビーナ調教師の下に移籍したのである。移籍に伴い、鞍上もハイメ・メディーナ騎手からアルベルト・バスケス騎手に替わった。以降、ウィンヒアーの手綱はバスケス騎手が握り続ける。


 2018年9月29日、ウィンヒアーはチレ競馬場のダート1900mで転厩初戦を迎えた。道中は馬群の中団で脚を溜めると、直線では内を突き抜け、2着に7馬身差をつける完勝をおさめた。このころから、ウィンヒアーは人気馬となるには欠かせない個性を身に着けていく。つまり、これまでのように好位から抜け出す競馬ではなく、差し・追い込みに徹するというスタイルである。


 2019年5月4日、ウィンヒアーは再びGⅠイポドロモ・チレに出走した。14番枠から発走すると、バスケス騎手は馬を下げて最後方で待機した。途中、先頭とは15馬身以上も離された。しかし、最終コーナーから徐々にギアを上げ、直線では馬群を縫いながら末脚を発揮した。ほとんど最後方一気というド派手なパフォーマンスで、重賞初勝利を見事にGⅠの大舞台で決めた。


■ 2019年GⅠイポドロモ・チレ



 この勝利でウィンヒアーは覚醒した。後方一気を武器に、2019年5月4日から2021年5月1日まで、18戦して連対率100%。18戦16勝、重賞10勝という驚異的な成績を残した。2021年5月1日には再びGⅠイポドロモ・チレを優勝した。先に抜け出したオコナー(O'Connor)とレダビダ(Le Da Vida)の3歳馬2頭を、7歳馬が目の覚めるような末脚でアタマ差ねじ伏せた。ウィンヒアーがチリ現役最強ダート馬、チリ最強古馬であることを疑う者はいない。


■ 2021年GⅠイポドロモ・チレ



 これぞウィンヒアーというレースがある。2020年12月5日、チレ競馬場のダート2200mで行なわれたGⅢペドロ・デル・リオ・タラベーラである。道中は先頭から40馬身も離れた最後方を進みながらも、ゴールでは2着に17 1/2馬身差をつける圧勝という一人舞台を演じた。この走りを見れば、ウィンヒアーを好きにならずにはいられない。


■ 2020年GⅢペドロ・デル・リオ・タラベーラ



 通算成績は51戦27勝。獲得賞金額は2億8528万0660ペソ。現在7歳だが、能力はまったく衰えていない。チリでは100戦を超える競走馬も少なくない。ウィンヒアーもまだまだ走り、まだまだ勝利を重ねるだろう。個性的で強いチリのアイドルホース。怪我なく無事に競走生活を送ってほしい。


■ 2018年9月29日からのウィンヒアーの競走成績。3着と8着に敗れたレースは共に芝なので、ダートに限れば約3年間も2着を外していない。


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木下 昂也(Koya Kinoshita)

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