• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

エスティファームの南米戦略が潔くて好きです

 南米牝馬と言えば、アルゼンチン牝馬が主流である。主流というより、南米牝馬=アルゼンチン牝馬とみなされているのが現状である。まだスタッドブックに登録されていない馬も含めると、日本には約70頭のアルゼンチン牝馬が現役の繁殖馬として稼働している。日本の生産牧場の南米戦略はアルゼンチン一択である。


 アルゼンチン牝馬に偏っている理由としては、ノーザンファームのアルゼンチン牝馬がそれなりに成功をおさめたからだろう。はたして、それはアルゼンチン牝馬自身の成功なのか、それとも単にディープインパクトの成功に過ぎないのかという疑問は拭えないが。いずれにせよ、ノーザンファーム以外の牧場もアルゼンチン牝馬に目をつけた。下河辺牧場、谷川牧場、ハクレイファーム、asrunなどである。


 しかし、悪い表現を許してほしいが、アルゼンチン牝馬を買うというのはノーザンファームの真似をしているにすぎない。成功者のやり方に乗っかれば成功できるとはかぎらない。偽物は本物を越えられない。現に、ノーザンファーム以外のアルゼンチン牝馬の産駒は大した成績を残せていない。


 一方、ノーザンファームの真似事をせずに独自の路線を、異色の南米戦略を取っている牧場がある。それがトーセンの島川隆哉氏が設立したエスティファームである。


 エスティファームにもアルゼンチン牝馬は飼養されている。エミレーツガール(Emirate's Girl)という2010年産まれの牝馬である。これまでトーセンリヤン、トーセンフィガロ、カンパニョーラと、3頭の競走馬を産んだ。実はもう2頭いた。カリニョーサ(Cariñosa)とソシオロガインク(Socióloga Inc)だが、前者は2019年9月19日に、後者は2021年3月18日に死亡した。島川氏が購入してアイルランドに移籍したアルゼンチン産馬ワイルズドリーム(Wilds Dream)など、今後エスティファームにアルゼンチン牝馬が増える可能性はあるが、現状ではエミレーツガール1頭である。


 エスティファームで注目しなければならないのはアルゼンチン牝馬ではない。ペルー牝馬とブラジル牝馬である。


 日本には現在、ペルー牝馬、あるいは、ペルーで現役生活を送った牝馬が5頭いる。アルムデーナ(Almudena)、ライアンズチャーム(Ryans Charm)、セルバティカ(Selvática)、シケエスブエナ(Si Que Es Buena)、スマートチョイス(Smart Choice)である。5頭はいずれもエスティファームで飼養されている。


 また、ブラジル牝馬、あるいは、ブラジル調教馬は未登録の馬も含めて16頭いるが、うち7頭がエスティファームの所有である。クルーズライナー(Cruiseliner)、エスフィンジ(Esfinge)、ハッピートゥービーミー(Happy To Be Me)、ハッセナー(Hassenah)、トウリガ(Touriga)、ヴーヴフルニ(Veuve Fourny)である。もちろん、ブラジル繁殖牝馬の所有頭数は日本最多である。


 ここに、エスティファームによる南米戦略の明確な意図を読み取れる。ノーザンファームの真似をしてはノーザンファームには勝てない。社台グループとは違う戦略で戦わなければならない。したがって、アルゼンチンではなくペルーとブラジルに目をつけたのだろう。


 では、アルゼンチンの競馬と比べて、ペルーとブラジルの競馬のレベルはどうなのか?


 南米にはラティーノアメリカーノというGⅠ競走がある。各国が代表馬を選出し、毎年異なる開催国の競馬場に集い、南米最強馬と最強国を決める、いわば競馬の南米選手権である。ラティーノアメリカーノの優勝回数は、南米各国の競馬レベルを比べる1つの指標として使えるだろう。


 ペルーはラティーノアメリカーノを9回優勝している。これはアルゼンチンの7回よりも多い。2015年にはアルゼンチンのパレルモ競馬場で行なわれたラティーノアメリカーノで、リベラル(Liberal)というペルー産馬が地元の強豪馬を倒して優勝した。これだけで、ペルー競馬がアルゼンチン競馬に決して劣っていないことが分かるだろう。また、エスティファームにいるライアンズチャームは、斜行で4着に降着となったものの、アルゼンチンのGⅠで1着入線し、後にアメリカのBCフィリー&メアターフでも6着に入った。


 10勝で南米選手権の最多優勝回数を誇っているのがブラジルである。南米No.1はブラジル競馬と言えるかもしれない。また、ヒボレッタ、ピコセントラル、ルロワデザニモー、バルアバリ、グローリアヂカンペアン、最近ではイバールと、世界で活躍したブラジル産馬は枚挙にいとまがない。そして、これが一番分かりやすいだろう、ジョアン・モレイラはブラジル人である。モレイラを生んだ国の競馬が格下な訳がない。


 エスティファームのアルゼンチン牝馬に頼らないという南米戦略には大きな利点がある。アルゼンチン牝馬といっても、その質はピンキリである。優秀な牝馬はノーザンファームが収穫しつくす。他の牧場はキリにあたるアルゼンチン牝馬しか購入することができない。


 一方、ペルーとブラジルは日本が未開拓の土地である。ノーザンファームもこの2ヶ国から買い物はしていない。良質な牝馬が残っている。競馬のレベルはアルゼンチンと比べて劣っていない。ファイザー製のワクチンがないなら、モデルナ製のワクチンを使えばいいのだ。エスティファームのペルー・ブラジル重視は賢い選択であり、産駒が大きな花火を打ち上げる可能性なら、余りもののアルゼンチン牝馬よりもペルー・ブラジル牝馬のほうが高い。


 エスティファームの特異な南米戦略が成功するか否かは分からない。エスティファームは購入した南米牝馬に自ら所有する種牡馬をつける。とりわけ、2021年にエスティファームで産まれたペルー・ブラジル牝馬の産駒7頭のうち、5頭がマクマホンを父に持つ。したがって、マクマホンがコケればみなコケる。しかし、結果うんぬんではなく、戦略の潔さ、独自路線に挑戦しているエスティファームには大きな魅力を感じる。


【まとめ】

◆ アルゼンチン牝馬はほとんどがノーザンの余りもの。

◆ エスティファームはペルーとブラジルの牝馬に注目している。

◆ ペルーとブラジルの競馬レベルはアルゼンチンに劣らない。

◆ アルゼンチン以外の南米諸国から優秀な牝馬を買うという選択は賢い。


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木下 昂也(Koya Kinoshita)

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