• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

エストレージャス競走回顧

 新型コロナウイルスの影響で3月から競馬が止まったことにより、本来は6月末に行なわれるはずのエストレージャス競走(アルゼンチン版ブリーダーズカップ)が、出走資格の馬齢を引き上げて(2歳戦⇒3歳戦、3歳以上牝馬⇒4歳以上牝馬など)、9月11日に開催された。


 Covid-19 のあおりを喰らったのは日程だけでない。コロナは出走馬にも多大なる影響を及ぼした。ジュヴェナイルとジュヴェナイル・フィリーズの3歳戦は、出走馬のほとんどが未勝利、もしくは、GⅠがデビュー戦となる異常事態となった。古馬に関しては、出走馬の9割が5ヶ月以上の休み明けと、まさに異例ずくめのエストレージャス競走となった。



✔ ジュヴェナイル・フィリーズ(ダート1600m) 優勝馬:インファルターメ(Infartame)


 出走11頭中5頭がデビュー戦、8頭が未勝利馬という、GⅠ競走ではなく、未勝利戦と呼ぶにふさわしい顔ぶれとなった。1番人気には、ここまで5戦3勝(GⅡ1勝、GⅢ1勝)のキーデピュティー産駒マルケサキーが推された。重賞馬どころか、複数回勝利したことのある馬はこの馬だけであり、勝利は確実かと思われた。


しかし、レースは2番手を追走したガブリエル・ボナソーラ騎乗の6番人気インファルターメが、直線で逃げ馬をとらえて優勝した。勝ちタイムは1分34秒47。イークワルストライプス産駒の同馬は、ここまで2戦して5着、3着の未勝利馬であり、未勝利馬によるGⅠ制覇となった。


 2着にはルブルース産駒のレースアンドパールズが逃げ粘った。このレースがデビュー戦であり、9番人気単勝57倍という超伏兵だった。注目のマルケサキーは、勝ち馬から約9馬身離された4着に敗れた。


 3歳牝馬路線は、10月3日に1冠目ポージャ・デ・ポトランカス(1000ギニー)、10月30日に2冠目セレクシオン(オークス)を迎えるが、変則日程の今年は大混戦になることが予想される。



✔ ジュヴェナイル(ダート1600m)

優勝馬:セテアードジョイ(Seteado Joy)


 ジュヴェナイル・フィリーズと同様、出走15頭中6頭がデビュー戦、9頭が未勝利という異例の顔ぶれになった。1番人気には、新馬戦で6馬身差の快勝をおさめたトレジャービーチ産駒のシャーキンが推された。2番人気は同じく新馬戦を6馬身差で勝ったキーデピュティー産駒のワンダフルキー。3番人気のニクソンジョイは、昨年のアルゼンチン・オークス馬ナスティアの全弟という超良血馬である。


 レースは、4,5番手を追走したファブリシオ・バローソ騎乗の4番人気セテアードジョイが、直線で逃げ馬の内をすくって3馬身差の快勝をおさめた。勝ちタイムは1分33秒47。父は昨年のアルゼンチン最優秀種牡馬フォーティファイ、母のストーミーセクソロジーは重賞2勝という良血馬が、前走3着から巻き返した。


 2着には追いこんだニクソンジョイ、3着にはシャーキンが入り、こちらは勝利経験のある馬での比較的堅い決着となった。なお、1着セテアードジョイ、2着ニクソンジョイは、共に父フォーティファイ、母父バーンスタインという配合である。


 3歳路線は、10月3日に1冠目ポージャ・デ・ポトリージョス(2000ギニー)を迎えるが、2冠目ジョッキークルブ、3冠目ナシオナル(ダービー)の開催日程はいまだに決まっていない。ポージャ・デ・ポトリージョスは今回の上位馬での決着になるだろうが、2冠目以降の日程次第では、新興勢力の台頭も充分に考えられる。



✔ スプリント(ダート直1000m)

優勝馬:ラレリキア(La Reliquia)


 1番人気はホースグリーリー産駒のシーズングリーリー。4歳牡馬で、ここまでわずか3戦しか走っておらず、重賞勝ちもないが、前走同条件で行なわれたレースを7馬身差で勝利したことが評価された。2番人気はルビオBが所有する2頭、ウモラーダネグラとクイーンリズ。前者は短距離で重賞2勝を含む4連勝中と勢いがあり、後者も直線1000mの重賞馬である。3番人気のエンドースメント産駒アートショーは昨年このレースの3着馬で、同条件のGⅠを勝ったことのある実績馬である。


 しかし、そんな実力馬たちを押しのけて優勝したのは、ケビダブエナ産駒の6歳牝馬、単勝12番人気の伏兵ラレリキアだった。同馬は、3連勝中と波に乗っていたが、これまで重賞勝ちはなく、2年前のエストレージャス・スプリントでも9着と大敗していた。好スタートを決めてすぐさま進路を外に取ると、ウモラーダネグラの追撃を 1 1/2馬身差しのぎ、見事に初GⅠ勝利を飾った。2着にはエンペラーリチャード産駒のウモラーダネグラが入り、牝馬のワンツーとなった。3着にはアートショー。


 今回はエロヒアードやスプリングドム、カルソネッティといった千直の実力馬たちが出走しなかったため、スプリント戦線はまだまだ混迷をきわめそう。



✔ マイル(ダート1600m)

優勝馬:パワーアップ(Power Up)


 明確な本命馬のいない中、1番人気になったのはフォーティファイ産駒のラックジョイ。重賞3勝馬であり。ダート1600mのGⅠで上位に入った経験がある。2番人気のエンドースメント産駒エンドモンドは、重賞勝ちこそないものの3連勝中であり、マイルではなかなか崩れない。2番人気タイにはローマンルーラー産駒のローマンザマッドが推されたが、戦績的には2番人気になる馬ではない。しかし、結果的に現地ファンの目が肥えていたと分かる。


 スタートでラックジョイがまさかの出遅れ。道中は終始馬群に揉まれ、四コーナー手前ですでに脚色が衰えてしまった。ラックジョイに代わって進出してきたのが僚馬の、あるいは、「じゃないほう馬」のパワーアップ。4コーナーで先頭に並びかけると、直線も力強く伸び、3馬身差の快勝をおさめた。キーデピュティー産駒の5歳馬が、2018年7月以来の重賞勝利を初GⅠ制覇という形で祝った。2着にはローマンザマッドが入った。3着はシドニーズキャンディー産駒のエストレント。


 スプリント路線は強い馬がいる中での混戦だが、マイル路線はここ2,3年手薄な状態での混戦が続いている。今回も実績のない馬での決着となり、マイル路線の主役は今後も入れ替わりが激しそう。



✔ ディスタフ(ダート2000m)

優勝馬:チタディリオ(Cita Di Rio)


 今年のエストレージャス競走でもっとも注目を集めたのがディスタフ。2019年アルゼンチン牝馬2冠馬ジョイカネーラが、昨年12月のGⅠカルロス・ペジェグリーニ(8着)以来となる復帰戦に挑んだ。単勝は2倍と、ここは負けられない1戦。2番人気はサンタ・エレーナ所有の4歳牝馬2頭。リザードアイランド産駒のジャネッラは牝馬重賞の常連だが、どうも勝ちきれない内容が続いている。ジョイカネーラへのリベンジなるか。イークワルストライプス産駒のチタディリオは、昨年は不振だったが、今年に入って同条件のGⅡを制するなど、上り調子である。


 2番枠からスタートしたチタディリオが、押して押してハナを切った。ジャネッラが2番手集団を進み、その後ろにジョイカネーラが控えるという展開になった。4コーナーで早くもジャネッラが脱落すると、ジョイカネーラが進出を開始。直線では、逃げるチタディリオと追うジョイカネーラという構図になった。しかし、チタディリオの脚色は衰えない一方、ジョイカネーラが思ったよりも伸びない。結局、チタディリオが5馬身差の逃げ切り勝ちをおさめ、ジョイカネーラは2着を確保するのがやっとだった。


 古馬牝馬路線の主役は2頭と考えられていた。4歳牝馬ジョイカネーラと5歳牝馬セアスアラバーダである。ここにきてチタディリオが急成長を見せ、今後は3頭でトップ争いを繰り広げていくだろう。



✔ クラシック(ダート2000m)

優勝馬:キングスルー(King Slew)


 1番人気は、昨年このレースの2着馬であるエモーションオーペン。GⅡを連勝中であり、ここは堅いとみなされ、オッズは2.35倍まで下がった。2番人気のオーペン産駒ピンボールウィザードは、マイルGⅠの勝ち馬であり、距離延長でここに挑んできた。3番人気はイードバイ産駒mpスペシャルドバイ。重賞勝ちはないが、前走GⅡでエモーションオーペンから3馬身差の3着に入ったことが評価された。


 エモーションオーペンが五分のスタートを決め、すんなりと2番手につけた。絶好の展開だったが、4コーナー手前で外から進出してきた馬に被されると、手ごたえが怪しくなった。代わって伸びてきたのが、中団で前の様子をうかがっていたピンボールウィザード。直線ではこのまま突き抜けるかと思われたが、さらに外から伸びてきたのが、5番人気の伏兵キングスルーである。道中は引っかかり、追走に苦労する様子も見られたが、直線を向くと鋭い伸び脚を見せ、2着に2馬身差をつけてゴールを駆け抜けた。後方を走っていた昨年このレース5着のインユアオーナーが、猛然と追いこんでピンボールウィザードを飲みこみ、2着を確保した。


 勝ったキングスルーはキャンパノロジスト産駒の4歳牡馬。叔父にはGⅠミゲル・アルフレード・マルティネス・デ・オスを制したハニーノヴがいる。これが重賞初制覇となった。昨年はジュヴェナイルに出走し2着だったが、2000ギニーで12着に敗れると、3冠競走には出走せず休養していた。ジュヴェナイルの勝ち馬が、現在アメリカで活躍しているイバールだったことを考えれば、人気の盲点になっていたかもしれない。


 アルゼンチン古馬戦線は、昨年の2冠馬ミリニャーケがアメリカに移籍したため、絶対的なエースが不在。GⅠラティーノアメリカーノを制したテターセが次期エース候補の筆頭だが、キングスルーも名乗りをあげた。


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木下 昂也(Koya Kinoshita)

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