• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

サトノフラッグの敗因を南米競馬オタクが考察してみた

 コントレイル、顎が外れるくらい強かったです。直線でのサリオスとの一騎打ちは見応えがありました。今年の3冠戦線の前半戦は無観客で行なわれることになりそうですが、例年以上の盛り上がりになるでしょう。


 戦前は3強の戦いという評価でした。単勝オッズにもそれがはっきりと表れていました。


◆ コントレイル 2.7倍 ◆ サトノフラッグ 3.6倍 ◆ サリオス 3.8倍 ◆ ヴェルトライゼンデ 13.0倍


 サトノフラッグは2番人気に支持されていましたが、結果はコントレイルから6 1/2馬身離された5着に敗れました。完敗と言っていいでしょう。


 レース後、ルメール騎手から気になる発言がありました。 「すごくいい感じだったのに伸びなかった。だんだんと走りが小さくなりペースダウンした。もう少し脚を使えると思ったけど…」


 また、国枝調教師からも同様のコメントが。 「弥生賞時のうなるような手応えがなかった。右にモタれてガス欠みたいになった。1,2着馬は強いが、少し離されているし負け過ぎ」

参照:https://news.netkeiba.com/?pid=news_view&no=170270 (最終閲覧日:2020年4月22日)

 敗因については様々な見方があると思います。ローテンションだったり、展開だったり、馬場だったり、血統だったり、単に能力が足りなかったという意見もあるかもしれません。


 僕は南米競馬のファンとして、サトノフラッグの敗因をアルゼンチン競馬の形態とアルゼンチン馬の特徴から探ってみました。


 ご存じの方も多いように、サトノフラッグの母はバラダセール(Balada Sale)というアルゼンチンの名牝です。アルゼンチン時代の競走成績は6戦5勝。アルゼンチンの桜花賞にあたるポージャ・デ・ポトランカス(GⅠ - ダート1600m)と、オークスにあたるセレクシオン(GⅠ - ダート2000m)を制して、牝馬2冠を達成しました。セレクシオンは2着馬に11馬身差をつける圧勝でした。

◆ ポージャ・デ・ポトランカス


◆ セレクシオン



 サトノフラッグは、父は日本近代競馬の結晶、母はアルゼンチン牝馬2冠馬という超良血馬です。セリで約2億円の値がついたのも頷けます。しかし、この良すぎる血統に最大の敗因が隠されています。


 ここでアルゼンチンの牝馬3冠競走について解説します。


 1冠目のポージャ・デ・ポトリージョスが行なわれるのは9月の第1週です。2冠目のセレクシオンは10月の第1週、3冠目のエンリケ・アセバル(GⅠ - 芝2000m)は11月の第1週に開催されます。なお、牡馬3冠もほとんど同じ日程です。


 アルゼンチンは南半球なので、馬齢の加算は7月1日です。つまり、3歳2ヶ月で1冠目を、3歳3ヶ月で2冠目を、3歳4ヶ月で3冠目を戦うことになります。日本競馬にあてはめると、2月に桜花賞、3月にオークス、4月に秋華賞というローテンションです。ちなみに、2月に入った時点でデアリングタクトはまだ1勝馬です。


※バラダセールが走った2011年は、エンリケ・アセバルが10月29日、セレクシオンが11月12日という日程でした。3歳4ヶ月までに3冠競走が終わるという認識をしてくださると助かります。


 つまり、アルゼンチン競馬には超早熟性が求められます。早熟であるということは、能力のピークを過ぎるのも早いということです。


 バラダセールもそうでした。圧倒的な強さと完成度でアルゼンチン牝馬2冠を達成し、素質を認められて海外に移籍したものの、その後は勝ち星を1つもあげられませんでした。競走馬としての旬をとっくに過ぎていたのです。


 バラダセールのような早熟馬はアルゼンチンにはとても多いです。無敗で2歳GⅠを制した、これは素質のある馬だ、アメリカで走らせよう。しかし、アメリカではまったく走りません。アルゼンチン・ダービーを圧勝した、これは強い馬に違いない。オーストラリアに移籍したものの、2桁着順ばかり。これはアルゼンチンの競走馬の能力が他国の馬に比べて劣っているというわけでは決してありません。アルゼンチン競馬には早熟性が求められ、早熟な馬を育てる環境が確立されているため、移籍先でレースを走る時には、すでに競走馬としての賞味期限が切れているからです。


 さらにポイントとなるのが、サトノフラッグの父ディープインパクトです。


 ディープインパクトは、母系の良さを引き出す種牡馬と言われます。サトノフラッグは母バラダセールの能力の高さと超早熟性を受け継いだということです。


 同じディープインパクト×アルゼンチン牝系には、サトノダイヤモンド、マカヒキ、ダノンファンタジーが該当します。サトノダイヤモンドもマカヒキも、3歳時は輝かしい成績をおさめましたが、古馬になってからGⅠを勝てませんでした。それどころか、かつての走りができなくなってしまいました。競走馬としての旬が3歳で終わってしまったからです。アルゼンチン牝系の宿命です。ヴィクトリアマイルで人気を背負うであろうダノンファンタジーも、僕はあまり期待していません。


 でも、サトノダイヤモンドとマカヒキも皐月賞は負けたけど、ダービーで盛り返したじゃん? という疑問を抱くかもしれません。


 サトノダイヤモンドとマカヒキは伸びてきて負けました。競馬としてはダービーに向けて良い内容だったと思います。また、サトノダイヤモンドの母マルペンサは、4歳時にGⅠを3勝しています。マカヒキの母母リアルナンバーも、3歳後半にGⅠを勝っています。どちらもアルゼンチン牝馬としては成長力がありました。したがって、この2頭は皐月賞の段階では成長途上だったと言えます。


 一方、サトノフラッグは伸びずに負けました。ウインカーネリアンさえ交わせませんでした。また、バラダセールは3歳4ヶ月以降勝ちがありません。この差は決定的だと思われます。


【まとめ】 ◆ アルゼンチン競馬では超早熟性が求められる ◆ 母バラダセールは3歳4ヶ月で能力のピークを迎えた ◆ 父ディープインパクトは母系の特徴を引き出す ☞ サトノフラッグの能力は高いが、ピークは3歳の早い時期


 サトノフラッグの皐月賞での敗因は、弥生賞でピークを迎えてしまい、すでに競走馬として下り坂にさしかかっている結果だと思います。ルメール騎手や国枝調教師の不穏なコメントが、そのことを臭わせているのではないでしょうか。


 南米競馬ファンとして、アルゼンチン牝系のサトノフラッグを応援しています。ですが、ダービーでは買いません。コントレイル、サリオス、これから成長してくる馬たちを逆転できる伸びしろはないでしょう。


 最後に……


 アルゼンチン牝馬がネガティヴな印象になるのも癪なので、最大の長所も紹介します。それは、やはり超早熟性です。


 能力が高くて早熟ということは、2歳重賞での勝機が充分にあり、3冠競走に高確率で出走してくるということでもあります。サトノダイヤモンド、マカヒキ、ダノンファンタジー、レシステンシア、サトノフラッグ……。日本にいるアルゼンチン牝馬は数えるほどにもかかわらず、毎年のように2歳~3歳重賞の優勝馬、クラシックの有力馬が誕生しているのは、アルゼンチン牝馬が持っている早熟性のおかげです。たとえば、POGの指名馬を探している方、これほど計算できる血統はありませんよ。


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木下 昂也(Koya Kinoshita)

Twitter : @koyakinoshita24

G-mail : kinoshita.koya1024@gmail.com

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