• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

スペイン競馬史に名を刻んだ女性騎手ニエベス・ガルシーア

◇ マチスモ


 スペイン語には「マチスモ」という言葉がある。たとえば、夫が妻を殴って逮捕されたという事件が起こると、マチスモ的な事件と報道される。マチスモとは、すなわち、「男性優位主義」や「男尊女卑」を意味する単語である。


 国によって特別に嫌悪される話題というのがある。アメリカなら人種差別が他の事件に増して注目を集めるだろうし、ドイツなら移民問題がピックアップされることが多いだろう。スペインでは、このマチスモがシビアな問題として扱われる。それは、スペインが非常にマチスモ的な国だった――現在形で書くべきかもしれない――ためである。


 競馬は日本に限らず男社会である。性差による運動能力や筋肉量の違いから、必然的にそうなってしまうのは仕方ない。しかし、藤田菜七子騎手をはじめ、ホリー・ドイル騎手、ミカエル・ミシェル騎手と、近ごろは女性騎手の活躍が目立っている。スペインでも1人の女性騎手が、マチスモ色が濃い国のマチスモ的な競馬界で躍動している。彼女の名を、ニエベス・ガルシーア(Nieves García)という。



◇ 女性騎手のパイオニア


 1977年、ニエベス・ガルシーアはスペイン南部の都市セビーリャで生まれた。調教師である夫との間に3人の子供がいる、いわゆる、ママさんジョッキーである。


 18歳からアマチュア騎手として競馬に乗り始めた。2006年にプロ騎手の免許を取り、2020年9月17日現在までに通算66勝をあげている。スペインには現在4人の女性プロ騎手がいるが、彼女はパイオニア的存在である。


 2016年10月、騎手生命が危ぶまれる。マドリードにあるサルスエラ競馬場でのレースで落馬。その際、後続の馬に顔を踏まれ、眼窩骨折、脊椎骨折という重傷を負った。家族は騎手を辞めるように説得したが、彼女は半年後に復帰した。落馬の恐怖は克服し、今ではレースを楽しめているという。


◇ 快挙


 2020年、ニエベス・ガルシーアはスペイン競馬史に刻まれる2つの快挙を達成した。7月5日、フェデリーコ号でスペイン最大の競走であるマドリード大賞(スペイン版ジャパンC)に騎乗した。結果は15頭立ての9着と振るわなかったが、100年以上の歴史を誇る同レースに女性騎手が騎乗したのは、これが初めてである。


 9月13日には、サルスエラ競馬場で行なわれたドゥケ・デ・アルブルケルケ大賞(天皇賞秋のようなレース)をノライ号で制した。彼女はスペイン競馬史上初めてグランプリ競走を優勝した女性騎手になった。


 グランプリの数ヶ月前、ニエベス・ガルシーアは交通事故で最愛の姉を失った。レース後、彼女はこの勝利を姉に捧げると涙した。


 スペインのマスコミは彼女の快挙を一斉に報じた。競馬人気の高い日本なら当たり前のことかもしれない。しかし、競馬の地位があまり高くない、フットボールとバスケットボールとテニスのことしか頭にないスペインで、競馬が、しかも、女性騎手が大手メディアにピックアップされたのは、歴史的大事件と言っても過言ではない。


 43歳のニエベス・ガルシーアはテレビのインタビューにて、まだまだ現役を退くつもりはないと述べ、次に勝ちたいレースとしてマドリード大賞を挙げた。3児の母と騎手という二足の草鞋は想像を絶する過酷な生活だろうが、落馬による大怪我、姉の突然の死を乗り越えた彼女なら、スペイン競馬の歴史をさらに切り開いていくに違いない。



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木下 昂也(Koya Kinoshita)

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