• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

セントゥリオンとは何者か?

写真:GRUPO 1 https://grupo-1.com/yeguada-centurion-ni-en-el-mejor-de-los-suenos/




■ 謎の馬主による攻勢


・ ゴフス社 35万ユーロ

・ タタソールズ社 27万ユーロ

・ アルカナ社 22万ユーロ

・ アルカナ社 21万ユーロ


 日本のセールに慣れている身としては、1頭1頭の金額は驚くに値しない。まずまずの馬を買ったのだろうと思う程度である。しかし、これらの馬をいずれも1人の馬主が落札したとなれば、いくぶん前のめりになって購入者について知りたくなるだろう。


 ここ2,3年、欧米のセールで活発な動きを見せている新興馬主がいる。スペインの『セントゥリオン』である。では、セントゥリオンとはいったい何者なのか?



■ レオポルド・フェルナンデス・プハルス


 話は1人のビジネスマンから始まる。レオポルド・フェルナンデス・プハルス(Leopoldo Fernandez Pujals)は、1947年3月12日にキューバの首都ハバナで生まれた。父親がイベリア半島北部のアストゥリアスに、母親が北東部のカタルーニャに起源を持つスペイン系キューバ人である。


 1959年にキューバ革命が勃発すると、その翌年、13歳となったフェルナンデス・プハルスは家族と共にアメリカのマイアミに亡命した。1968年にアメリカ海兵隊に入隊し、ベトナム戦争に参加した。除隊後は金融を学び、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)に入社。後にジョンソン・エンド・ジョンソンに転職した。


 1981年、フェルナンデス・プハルスは仕事でスペインへ渡った。それから6年後の1987年、彼はジョンソン・エンド・ジョンソンで働きながら、マドリードで『ピッツァフォン(Pizzaphone)』というピザ屋をオープンした。これが、現在世界36の国と地域に2600店舗を構え、4万5000人もの従業員を要する『テレピッツァ(Telepizza)』の始まりである。



■ イェグアーダ・セントゥリオンの創設


  テレピッツァの創業者として大成功をおさめたフェルナンデス・プハルスは、自分を受け入れてくれたスペインに恩返ししたいと考えた。その1つが、スペイン産サラブレッドの改良である。


 1995年、彼はイベリア半島中央部のセゴビアに広大な農地を拓き、馬の生産・飼育に着手した。これが『イェグアーダ・セントゥリオン(Yeguada Centurion)』の始まりである。イェグアーダとはスペイン語で「飼い馬の群れ」を意味し、したがって、日本語に直すと「セントゥリオン牧場」となる。


 当初は、馬術の国際大会やオリンピックで勝てる馬の育成を目的に、世界各地から優秀な繁殖馬が導入された。しかし、2018年からフェルナンデス・プハルスは競馬界にも進出した。友人に連れられてサルスエラ競馬場を訪れてから、競馬熱が宿ったそうである。競馬先進国で開かれたセールにおいて冒頭で述べたような攻勢を仕掛け、良血馬・繁殖牝馬を買い漁っている。



■ 競馬三流国スペインから世界へ


 フェルナンデス・プハルスは、2018年から2019年までに38頭の繁殖牝馬と6頭の競走馬を購入した。その中には、アメリカンファラオ、フランケル、アロゲート、1世代しか残せなかったロアリングライオンの仔を受胎した牝馬が含まれている。こちら のページ下部で購入馬の一覧と価格を閲覧できる。競馬発展途上国スペインで、これら超一流馬の産駒が誕生するとは前代未聞である。


 また、昨年のキーンランド・ノベンバーセールでも17頭の繁殖牝馬を計342万5000ドルで購入した。


 ゴフス社のセールで35万ユーロで落札されたのは、キングマンを父に持つレイナマドレ(Reina Madre)である。2歳時にスペインで2戦し、フランスのリステッド競走でも2着に入った。現在はフランスで開業しているスペイン人調教師マウリ・デルシェールの下に移籍し、仏1000ギニーを目標に調整されている。


 タタソールズ社のセールで27万ユーロで落札されたのは、シーザスターズを父に持つスリマール(Surimar)である。フランスのマチュー・ブラスム調教師の管理馬だが、3月31日時点では競走馬としてデビューしていない。


 アルカナ社のセールで22万ユーロで落札されたのは、テオフィロ産駒のクーバラベーリャ(Cuba La Bella)である。この馬もマチュー・ブラスム調教師の管理馬だが、まだ競走馬としてはデビューしていない。


 同じくアルカナ社のセールで21万ユーロで落札されたのは、シビーラスペイン(Sibila Spain)である。この馬の父はフランケルであり、長距離路線で活躍したマスターオブリアリティを全兄に持つ良血である。フランスのクリストファー・ヘッド調教師に預けられている。3月25日のデビュー戦を圧勝し、6月20日の仏オークスへの出走を目標にしている。


 セントゥリオン、もしくはその代理人であるフランシスコ・ベルナール(Outsider Bloodstock)が購入した競走馬は、まずスペインで育成される。その後はそのままスペインで走らせるか、フランスでデビューするかだが、いずれにせよ最終的にはフランスを主戦場にする。引退後はセントゥリオン牧場で繁殖入りするという流れになるだろう。


 フェルナンデス・プハルスとイェグアーダ・セントゥリオンの挑戦は始まったばかりである。今年も多数の良血馬を高値で競り落とし、セール会場でプレゼンスを発揮するに違いない。また、セントゥリオン牧場の生産馬がまもなくデビューを迎える―—フランスでのデビューが濃厚——。


 セントゥリオン。この名前を見たら、スペインの馬主、スペインの生産者だと覚えておいてほしい。


----------

木下 昂也(Koya Kinoshita)

Twitter : @koyakinoshita24

G-mail : kinoshita.koya1024@gmail.com