• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

ノーザン・アルゼンチンと非ノーザン・アルゼンチンの違いとは?

 アルゼンチン産馬を母に持つ活躍馬には次のような馬たちがいる。


・グラティアス

・クルミナル

・サトノダイヤモンド

・サトノフラッグ

・サトノレイナス

・ダノンファンタジー

・ディアデラノビア

・ヒシイグアス

・ピオネロ

・リナーテ

・レシステンシア


 これらの馬には共通点がある。それは、ノーザンファームの生産馬だということ。逆に言えば、ノーザンファーム以外で生産されたアルゼンチン産馬を母に持つ馬は活躍していないということである。


 なぜノーザン・アルゼンチンの馬しか力を発揮できないのだろうか? ディープインパクトの力を頼れたから。ノーザンファームの環境が良いから。そもそも日本の競馬はノーザンファームの天下だから。しかし、理由は本当にそれだけだろうか? ノーザン・アルゼンチンと非ノーザン・アルゼンチンには、他にも違いがあるのではないか?


 決定的とまでは言えないが、両者における小さくない違いは存在する。それは輸入するアルゼンチン牝馬の質である。


 以下は、ノーザンファームで飼養されているアルゼンチン牝馬と、ノーザンファーム以外で飼養されているアルゼンチン牝馬の一覧と現役時代の競走成績である。参照したのは稼働中の牝馬のみで、未登録馬・引退馬・死亡馬は除外した。また、現在の飼養者ではなく、輸入者で分類した。たとえば、ストゥデンテッサは現在岡田スタッドで繋養されているが、輸入された当初はノーザンファームで繋養されたため、ノーザン・アルゼンチンとみなした。競走成績はアルゼンチン時代のみで、北米・その他地域への移籍後の成績は含めていない。青字はGⅠ馬である。



ノーザン・アルゼンチン(26頭)


・アトミカオロ(Atómica Oro)

・バラダセール(Balada Sale)

・カニョット(Cagnotte)

・カルディーン(Caldine)

・コンヴィクション(Conviction)

・クルソーラ(Cursora)

・ダータ(Data)

・フィールザレース(Feel The Race)

・グローバルビューティー(Global Beauty)

・ハイドバウンド(Hidebound)

・イスパニダー(Hispanidad)

・ラリズ(La Liz)

・ライフフォーセール(Life For Sale)

・マルアコストゥンブラーダ(Malacostumbrada)

・メチャコルタ(Mecha Corta)

・ミスセレンディピティ(Miss Serendipity)

・ナスティア(Nastia)

・オンディーナドバイ(Ondina Dubai)

・ポジティヴマインド(Positive Mind)

・サファリミス(Safari Miss)

・スクールミストレス(Schoolmistress)

・セレスタ(Seresta)

・ソブラドーラインク(Sobradora Inc)

・ストゥデンテッサ(Studentessa)

・ティロレスカ(Tirolesca)

・ワナダンス(Wanna Dance)


【競走成績】

232戦118勝(50.9%)

重賞:60勝

GⅠ:31勝



非ノーザン・アルゼンチン(31頭)


・ベラルーサ(Belarusa)

・キャンディネバーダ(Candy Nevada)

・ケアレディー(Care Lady)

・キャッチザカクテル(Catch The Cocktail)

・チックニステル(Chic Nistel)

・ドロミティ(Dolomiti)

・エミレーツガール(Emirate's Girl)

・エントロピア(Entropia)

・エストレチャーダ(Estrechada)

・フリアアステカ(Furia Azteca)

・ジュリエットシアトル(Giuliet Seattle)

・ホーリーウーマン(Holly Woman)

・イリーサ(Irisa)

・ジョイニキータ(Joy Nikita)

・ラビルキン(La Birkin)

・マサイマラ(Maasai Mara)

・マルアコンセハーダ(Malaconsejada)

・マンテーラライ(Mantera Rye)

・ムーンオブザシティ(Moon Of The City)

・オジャグア(Ollagua)

・パドックシアトル(Paddock Seattle)

・ペルフォルマーダ(Performada)

・プレインズウーマン(Plainswoman)

・プラジャデシエルタ(Playa Desierta)

・プルハ(Pluja)

・クイーンズアドヴァイス(Queen's Advice)

・シクスィーズ(Sixes)

・スプリンググローリー(Spring Glory)

・スウィーティーガール(Sweetie Girl)

・ビベンシアル(Vivencial)

・フーイズフー(Who Is Who)


【競走成績】

400戦127勝(31.8%)

重賞:54勝

GⅠ:18勝


 非ノーザン・アルゼンチン31頭の中には、社台ファームで飼養されている馬が10頭含まれる。キャンディネバーダ、フリアアステカ、ジュリエットシアトル、ジョイニキータ、オジャグア、ペルフォルマーダ、プラジャデシエルタ、クイーンズアドヴァイス、シクスィーズ、ビベンシアルである。ノーザンファームと同じ社台グループとしてこの10頭を除外すると、非ノーザン・アルゼンチンの成績は263戦81勝(30.8%)、重賞33勝、GⅠ7勝となるが、分かりやすさのため、今回は社台ファーム飼養の10頭も非ノーザン・アルゼンチンとする。


 ざっと数字を見ただけでも、ノーザン・アルゼンチンのほうが現役時代の成績が上回っているのが分かる。GⅠ馬の頭数とGⅠ勝利数に関してはほぼ倍も違う。いかにノーザンファームが優秀なアルゼンチン牝馬を仕入れているかということである。


 もう少し掘り下げたいのが出走回数である。ノーザン・アルゼンチンが232戦に対し、非ノーザン・アルゼンチンは400戦と、わずか5頭の差にもかかわらず、約170戦も違う。1頭あたりの平均出走回数は8.9回と12.9回である。これは何を意味するだろうか?


 アルゼンチンは輸出超過国である。同国のスタッドブックによると、2019年は347頭の輸出に対し、輸入は89頭。昨年は243頭の輸出に対し、輸入はわずか37頭だった。アルゼンチンの経済力では、国内でサラブレッドを循環させたところで大した稼ぎにはならない。レース賞金は安く、最大手の牧場が開くセールの最高額でさえ1500万円前後である。したがって、国内市場ではなく海外市場で儲けるのがアルゼンチン競馬の基本である。馬主は馬を売りたがり、外国からの購入オファーは常に前向きに検討される。


 才能ある馬を安価な値段で買えるとなれば、世界の競馬人たちが黙っているはずがない。アメリカをはじめ、南アフリカ、UAE、サウジアラビア、オーストラリア、香港、シンガポールなどの馬主がアルゼンチン産馬を狙っている。最近では、アルゼンチンの2歳馬セールの高額落札者に、こうした国の馬主の名前を見るようになった。先進国から高い値で中途半端な馬を買うより、南米から安い値で重賞で勝負になる馬を買ったほうがお得という意図である。


 この競争に日本から加わっているのがノーザンファームである。社台グループは南米の競馬や市場に理解があるため、現地の馬を正しく評価、値踏みすることができる。豊富な情報とコネクション、そして吉田ファミリーという圧倒的な知名度と信頼度を駆使し、良い牝馬を早い段階で見つけ、オファーを出し、諸外国との競争に負けることなく売買を成立させられる。ゆえに、ノーザンファームで繋養されているアルゼンチン牝馬は比較的出走回数が少ない。


 反対に、アルゼンチンでの出走回数が多い馬というのは、外国からオファーが届かなかった馬、もしくは、評価されずに売れ残った馬である可能性が高い。売れないから走り続ける。少しでも見栄えの良い成績を残そうと走り続ける。こういう馬は、馬主がエージェントに働きかけて、あの手この手で売却を試みる。いわば、逆オファーを出す。これは余談だが、現地エージェントの中には、馬体は問題なくとも精神的な問題や悪癖を抱えている馬を、さぞ健康な馬と偽って売ろうと企む者がいる。


 逆オファーのメインターゲットとされるのが、ノーザンファームではない日本の生産者