• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

ブラジルの華麗なる一族:ジョイヴァレー


オリンピックハノイ(Olympic Hanoi) 写真:El Turf https://elturf.com/ejemplares-fotos?id_ejemplar=396076&tipo_vista=

最高の母


 ブラジル・スタッドブックが「ブラジル競馬史上最高の母」と称した馬がいる。1989年10月14日にサンタ・アナ・ド・ヒオ・グランヂ牧場で産まれたその牝馬を、ジョイヴァレー(Joy Valley)という。父はブラジル競馬を代表する種牡馬の1頭ガディール。母のベルヴァレーは、GⅠゼリア・ゴンザーガ・ペイショット・ヂ・カストロとGⅠ OSAFのGⅠ2勝を含む重賞5勝と活躍した。競走馬としては7戦2勝の成績を残し、1992年7月26日にガヴェア競馬場で行なわれたリステッド競走を優勝した。引退後はブラジルで繁殖入りし、後にアメリカに渡った。2013年の産駒を最後に繁殖から退き、2020年10月30日、ケンタッキー州にあるテイラーメイド・ファームで亡くなった。



ジョイヴァレーの産駒


 1995年7月13日、ロワノルマンとの間に産まれたジョイヴァレー2番目の産駒は、ブラジル競馬史に名を刻む名馬となった。ヒボレッタ(Riboletta)である。ヒボレッタは、1998年にシダーヂ・ジャルディン競馬場で行なわれたサンパウロ地区のオークスにあたるGⅠヂアナを優勝するなど、11戦5勝、重賞3勝という成績をあげた。翌年、アメリカのエドゥアルド・インダ調教師の下に移籍すると、2000年にはサンタ・マルガリータH、ミレディ・ブリーダーズ・カップH、ヴァニティーH、ラフィアンH、ベルデイムSとGⅠを5勝し、その年のアメリカ最優秀古馬牝馬に選出された。


■ ヒボレッタが勝った2000年のベルデイムS



 ジョイヴァレーの勢いは衰えない。1996年8月4日、3番目の産駒であるヒボレッタの全弟スーパーパワー(Super Power)が誕生した。1999年1月3日にデビューすると、同年6月27日には2歳GⅠを優勝した。3歳となった2000年2月27日に、ブラジル牡馬3冠の1冠目であるGⅠエスタード・ド・ヒオ・ヂジャネイロを制すると、2冠目のGⅠジョッキークルブ・ブラジレイロ、ブラジルのダービーにあたるGⅠクルゼイロ・ド・スルも優勝し、ブラジル競馬史上11頭目の3冠を達成した。ちなみに、この年はビーフェアー(Be Fair)も牝馬3冠を達成した。


■ スーパーパワーが勝った2000年のクルゼイロ・ド・スル



 ヒボレッタとスーパーパワーの実績が認められ、ジョイヴァレーは2001年にアメリカの生産者に購入された。だが、アメリカでは活躍馬を輩出できなかった。主にフォレストリーと種付けされたが、ジョイヴァレーにはロワノルマンが肌に合っていたのだろう。



ヒボレッタの産駒


 ヒボレッタもブラジルには帰らず、アメリカで繁殖牝馬となった。最初は母ジョイヴァレーと同じくマリー・ジョーンズ女史の下で、2007年からはダーレーの所有で生産活動に従事した。最優秀古馬牝馬に選出された名牝の産駒とあれば、さぞ注目されたことだろう。しかし、2003年のエターニティー(Eternity)、2005年のファイヤールックアウト(Fire Lookout)、2006年のヒボレット(Riboletto)、2008年のヒボレッティ(Riboletti)、2009年のメイビーサンデー(Maybe Sunday)、2011年のコステーラ(Costela)、2012年のグリムヒルデ(Grimhilde)と、ヒボレッタの仔はいずれも競走馬として空振りに終わった。重賞を勝つような大物は産まれなかった。


 ジョイヴァレーの血はここで途絶えるのか?


 しかし、エニーギヴンサタデーを父に持つ5頭目の産駒メイビーサンデーが、母の母国ブラジルで繁殖牝馬となったことで大きな転機が訪れた。



メイビーサンデーの産駒


 2021年5月1日時点で、メイビーサンデーは7頭の仔を産んでいる。うち5頭が競走年代に達し、5頭いずれも勝利をあげた。


 2014年9月19日にアドリアーノとの間に産まれた2番目の産駒オリンピックハイノ(Olympic Hanoi)は、2018年4月8日にガヴェア競馬場で行なわれたGⅠクルゼイロ・ド・スルを優勝した。


■ オリンピックハノイが勝った2018年のクルゼイロ・ド・スル



 翌年産まれたシャンハイボビー産駒の牡馬オリンピックイプスウィッチ(Olympic Ipswich)は、重賞勝ちこそないものの、サンパウロ地区のダービーにあたるGⅠデルビー・パウリスタで2着、GⅠクルゼイロ・ド・スルで3着と好走した。


 2018年8月1日、メイビーサンデー5番目の産駒として産まれたのが、牝馬のオックスフォードガール(Oxford Girl)である。母はジョイヴァレーの末裔、父は現ブラジル・リーディングサイヤーのアグネスゴールド。アグネスゴールドにとっては、これまで輩出した産駒の中でもっとも良血の1頭だろう。オックスフォードガールは、2021年4月12日にデビュー勝ちをおさめた。競走馬としての素質は高く、繁殖牝馬としてもこの血統の守り手となるかもしれない。また、2019年に産まれたメイビーサンデー6番目の仔パリサンジェルマン(Paris St Germain)もアグネスゴールドを父に持つが、こちらは牡馬である。


 途絶える寸前まで追いこまれていたジョイヴァレーの血は、メイビーサンデーによってかろうじて紡がれた。


■ デビュー戦を勝利したオックスフォードガール




日本とジョイヴァレー一族


 アルゼンチン産馬と異なり、ブラジル産馬はなかなか日本に入ってこない。これまで紹介したアルゼンチンの『日本一族』、『フィリピン一族』、『歴史一族』と違い、ジョイヴァレーの一族は日本競馬で1頭しか走っていない。それが、アメリカで産まれたジョイヴァレーの直仔、かつ11番目の産駒アンウォンド(Unwound)である。マスターコマンドを父に持つこの牝馬は、大樹ファームの所有となり、日本で競走生活を送った。ヒボレッタ、スーパーパワーの半妹にあたるが、通算成績は17戦3勝と思ったような活躍はできなかった。引退後はアメリカに戻って繁殖牝馬となった。したがって、今後輸入されなければ、日本でジョイヴァレーの血が栄えることはない。


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木下 昂也(Koya Kinoshita)

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