• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

メキシコ競馬の歴史が動いた日:女性騎手限定競走の開催


ジャスミン・ラリオス騎手 写真:ラス・アメリカス競馬場(@hipodromomex) https://twitter.com/hipodromomex/status/1396269616104722433

 2021年5月22日はメキシコ競馬にとって歴史的な1日となった。それは世界で活躍するような強い馬がデビューしたからでも、Covid-19の影響による長い無観客開催に終止符が打たれたからでもない。78年にもおよぶ同国ラス・アメリカス競馬場の歴史において、史上初めて女性騎手限定競走が開催されたからである。


 22日に行なわれたラス・アメリカス競馬場8Rのダート1200mには8頭が出走した。8頭の鞍上はいずれも女性騎手に限定された。出走馬と騎手は以下のとおりである。


① メキシカンムーン(Mexican Moon)

ピラール・ルナ騎手


② バイサーノ(Baisano)

マリーア・ヒル騎手


③ メレケテンゲ(Merequetengue)

エウニセ・ピーニャ騎手


④ ルストフ(Rustof)

ジャスミン・ラリオス騎手


⑤ ミスターヴァイキング(Mr. Vi King)

ジェニファー・ロドリゲス騎手


⑥ マキシムスアッタネル(Maximus Attaner)

ブレンダ・エルナンデス騎手


⑦ ソシオ(Socio)

カルラ・ララ騎手


⑧ リスキーベット(Risky Bet)

ガブリエラ・コルドバ騎手


 勝利したのは、ジャスミン・ラリオス騎乗の6番人気④ルストフだった。道中は内の4,5番手を追走し、馬群が膨れた最終コーナーではそのまま内を突き、直線では逃げた①メキシカンムーンとの追い比べを制した。勝ちタイムは1分12秒3。2着にはピラール・ルナ騎乗のメキシカンムーン、3着にはジェニファー・ロドリゲス騎乗のミスターヴァイキングが入った。最年少16歳での参加となったブレンダ・エルナンデス騎乗の1番人気マキシムスアッタネルは4着だった。


 ルストフは父モアザンリーガル、母アマナイ、その父ロコチョンという血統の4歳牡馬。今回の勝利で通算成績を16戦3勝とした。重賞勝ちはないが、この歴史的なレースを優勝したことでメキシコ競馬史にその名を刻んだ。勝利したジャスミン・ラリオス騎手は首都メキシコシティー出身の29歳で、2014年5月31日に騎手デビューを果たした。2018年に長女を出産。4年間の育児休業を経て、2021年4月23日に復帰したばかりである。



 メキシコ競馬と女性騎手の歴史について少し触れておく。メキシコ競馬史上、女性騎手として初めてラス・アメリカス競馬場で騎乗し、勝利をおさめたのは、メキシコ人ではなくアメリカ人だった。キャシー・クスナーという馬術家で、彼女は1968年のメキシコ・オリンピックに馬術のアメリカ代表として参加した。1970年4月7日にパガマル号(Paga Mar)でラス・アメリカス競馬場のレースに出走し、勝利をおさめた。メキシコ人最初の女性騎手の誕生は2000年まで待たなければならなかった。マリーア・ビジャロボス騎手である。彼女は2002年5月29日にメキシコ人女性騎手として初めて勝利をおさめた。現在は調教師をしている。クスナー、ビジャロボスに次いで3人目の女性騎手となったのが、今回勝利をおさめたジャスミン・ラリオスである。2014年5月31日のことだった。以降、エリザベス・ガリード、ソフィーア・ロファーノ、ヴァネッサ・ロンベルグ、グアダルーペ・ウルティアといった女性騎手が誕生した。現在メキシコには8名の女性騎手がいるが、これはメキシコ競馬史上最多の人数である。


 メキシコはサラブレッドによる競走がそれほど盛んではない。サラブレッドの生産頭数も年々減っており、競馬の存続が危機に瀕しているとの声もある。しかし、メキシコ競馬からは才能あふれる人馬が世界に、主にアメリカに飛び出してきた。ビクトル・エスピノーサ騎手とレトルスカ号はその代表例である。今回騎乗した女性騎手の多くが、将来アメリカで騎乗することを夢見ている。このレースがメキシコにおける女性騎手のさらなる地位向上につながってほしい。


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木下 昂也(Koya Kinoshita)

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