• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

ラレノレータ:限界突破サバイバー


写真:El Turf https://elturf.com/ejemplares-fotos?id_ejemplar=333536&tipo_vista=

 アーモンドアイのように強い牝馬がいる。ソダシのように美しい牝馬がいる。ウオッカやダイワスカーレットのように女傑と称えられる牝馬もいる。しかし、ラレノレータ(La Renoleta)ほどたくましい牝馬は、世界を見渡しても滅多にいないだろう。


 ラレノレータは2015年10月30日、アルゼンチンのアボレンゴ牧場で産まれた。父トレジャービーチ、母ディキシーテール、その父テールオブザキャットという血統。フォンクの所有となり、サンタフェ州アルテアガにあるフアン・アントニオ牧場で育成されることになった。


 2016年9月、ラレノレータが1歳のとき、激しい雷雨がアルテアガを襲った。牧場ではラレノレータを含む9頭が放牧されていたが、不運なことに、雷が囲い場の地面に落ちてしまった。この落雷で2頭が死亡し、ドルミーアソラ(Dormía Sola)という頭が片方の視力を失った。ドルミーアソラの話は こちら で詳しく書いたので、ぜひご覧いただきたい。しかし、ラレノレータは偶然にもこの3頭から離れた場所にいたため、奇跡的に無傷だった。


 ラレノレータの悲劇は続く。


 2018年3月2日、2歳になったラレノレータは、デビューに備えてパレルモ競馬場の馬房に入っていた。朝5時ごろ、彼女は腹痛の症状を訴えた。直前にはいつもどおりの調教を行なっており、身体のどこにも異常は見られなかった。獣医師のマウロ・ベルナ氏が慌ててやってきて、疝痛への一般的な治療を施した。


 しかし、原因不明の疝痛は悪化していく一方だった。ラレノレータは痛みのあまり、地面に転がってのたうち回った。原因究明のため、彼女はパレルモ競馬場からサン・イシドロ競馬場付属の病院に搬送された。検査の結果、長い管状の物体が大腸を塞いでいることが分かった。


 緊急手術が行なわれた。ベルナ医師は謎の物質を摘出した。それはロープの一部だと判明した。どうやら、ラレノレータの疝痛はロープを誤飲したことによって引き起こされていたようである。「まるで急性虫垂炎を起こした人間みたいだった。彼女を救えた鍵は、すぐに原因を特定し、手術できたことだった」とベルナ医師は振り返った。


 ラレノレータは無事に回復し、ハビエル・フレン調教師の下でトレーニングを重ねた。9月から始まる3歳GⅠ戦線には間に合わなかったものの、2019年3月9日、パレルモ競馬場3Rの芝1200mで無事に競走馬としてデビューすることができた。11頭中9番人気と低評価だったが、2着に1馬身差をつける差し切り勝ちをおさめた。順調なスタートを切ったが、フレン調教師は距離が伸びればもっと良いパフォーマンスができると信じていた。


 この勝利はとある人物に電話で伝えられた。ラレノレータを救ったマウロ・ベルナ医師である。デビュー勝ちの報告を受けると、彼は自分のことのように喜んだという。


■ デビュー戦



 ラレノレータはそれから1400m、1600mと連勝した。6月29日には、アルゼンチン競馬の祭典エストレージャス競走の1つ、牝馬最強馬を決める戦いGⅠエストレージャス・ディスタフ(ダ2000m)に出走した。道中は馬群の中団で脚を溜めると、直線力強く伸びて3馬身差の快勝をおさめた。落雷と疝痛。2度も死にかけた馬が、デビューからわずか3ヶ月、無傷の4連勝でアルゼンチン競馬の女王にまで登りつめた。


■ GⅠエストレージャス・ディスタフ



 レース後、ラレノレータはアメリカの馬主に売却され、スティーヴン・アスムッセン調教師の管理馬となった。アメリカ・デビューは2020年2月8日のオークローンパーク競馬場ダート1700m。アルゼンチン産の無敗牝馬がどのような走りをするのか半信半疑で見られていたが、リカルド・サンタナ騎手を背に、2着に9 3/4馬身もの大差をつける圧勝劇を披露した。誰もが大物の予感を抱いた。アルゼンチン競馬界は母国の英雄となる姿を想像した。


 しかし、ラレノレータを3度目の悲劇が襲う。


 アメリカ2戦目はGⅠアップル・ブラッサムHを予定していた。しかし、調教中に転倒し、レースを回避せざるをえなくなった。アルゼンチンの競馬メディアがアスムッセン調教師に取材したが、怪我の詳細は明かされなかった。脚を怪我したことは確かだそうだ。全治未定という大怪我で、ラレノレータは引退の危機に瀕した。なお、2020年のアップル・ブラッサムHはシーシー(Ce Ce)が勝利したが、ラレノレータが無事に出走していれば、間違いなく良い勝負になった。


 雷で死にかけ、腹痛で死にかけ、今度は怪我で死にかけた。ラレノレータは不運まみれの馬である。だが、彼女は困難に直面しても決して挫けない、たくましい馬だった。


 2021年4月24日、ラレノレータは大怪我を克服して15ヶ月ぶりにレースに復帰した。デビュー戦での圧勝がファンの残像にあったのか、1番人気に指示されたが、終始後方のまま最下位の6着に敗れた。ラレノレータに初めて土がついた。


 しかし、悲観することはない。大怪我明け15ヶ月ぶりのレースでまともに走れる馬は滅多にいないだろう。次走は久々を叩いた良化が望める。また、ラレノレータは北半球換算で6歳だが、10月30日と遅産まれでキャリアも少ない。身体は若く、これからの馬である。モノモイガール、スイススカイダイヴァー、レトルスカらと共に、アメリカの牝馬GⅠを盛り上げてくれると信じている。


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木下 昂也(Koya Kinoshita)

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