• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

前代未聞:レースに騎乗していなかった騎手が6ヶ月の騎乗停止に


ラッフスター(Raffsttar) 写真:El Turf https://elturf.com/ejemplares-home?id_ejemplar=626857&tipo_vista=

 6月20日、ベネズエラ競馬委員会はネルソン・カスティージョ調教師とフレディー・モラーレス獣医師に2年の資格停止を、ジーン・カルロス・ロドリゲス騎手に6ヶ月の騎乗停止を言い渡した。原因となったのは、4月18日に同国のラ・リンコナーダ競馬場で行なわれたGⅠプレシデンテ・デ・ラ・レプブリカ(ダ2400m)である。


 一連の制裁に至るまでの話は複雑であり、とりわけロドリゲス騎手への制裁に関しては物議を呼ぶところである。


 前述のGⅠ競走には、ラッフスター(Raffsttar)という4歳馬が出走した。同馬を管理するのはカスティージョ調教師である。ラッフスターは、2020年にベネズエラ競馬史上9頭目の3冠馬となり、このレースでも当然1番人気に支持された。しかし、レース中に故障を発生して9着と惨敗。この怪我が原因で、ラッフスターは現役引退を余儀なくされた。今後は種牡馬になる予定である。


 ベネズエラでは、圧倒的1番人気を背負った馬が大敗した場合、原因を解明するために調査が入る。ラッフスターの敗戦も調査にかけられた。すると、レース前からすでに怪我をしていたことが判明した。3冠を成し遂げた名馬に無理をさせ、結果的に潰してしまったとして、カスティージョ調教師とモラーレス獣医師には2年の資格停止処分が課された。馬の怪我が理由で関係者が処分されるとは、日本ではありえない制裁だろうが、理由が理由であるために納得はできる。


 さて、ここで問題になるのがジーン・カルロス・ロドリゲス騎手である。


 ラッフスターの通算成績は12戦6勝。うち5戦して4勝をロドリゲス騎手であげた。4勝の中には3冠競走も含まれる。だが、ロドリゲス騎手にはアメリカで騎乗する予定があったため、GⅠプレシデンテ・デ・ラ・レプブリカではシプリアーノ・ヒル騎手が手綱を握った。そして、事前に故障していたラッフスターは大敗、怪我を悪化させて再起不能となった。


 もし騎手にも責任があるというならば、ヒル騎手が6ヶ月の騎乗停止になるべきではないか?


 ベネズエラの著名なスポーツ記者マヌエル・ロドリゲス氏によると、ベネズエラ競馬委員会はロドリゲス騎手もラッフスターの怪我を事前に知っていたと結論づけた。GⅠでまともな勝負はできそうにない。そこで、アメリカで騎乗する約束を取りつけ、ラッフスターへの騎乗を回避したというのである。したがって、騎乗したヒル騎手ではなく、故障を知らせなかったロドリゲス騎手に制裁が下されたというわけである。


【まとめ】

・ 3冠馬ラッフスターがGⅠで大敗。調査が入る。

・レース前から怪我をしていたことが判明。調教師と獣医師が2年の資格停止。

・主戦騎手はアメリカにおり、当該レースに騎乗していなかった。

・騎手も怪我を知っていた(とみなされた)。報告違反で6ヶ月の騎乗停止。


 ジーン・ロドリゲス騎手への騎乗停止を巡っては、SNS上で論争が起こっている。「不当な(injusta)な制裁である」という意見が多数を占めている。


 たしかに、ラッフスターが怪我をしていたのを隠し、騎乗を避け、その結果、馬が引退を余儀なくされたというのは大問題である。だが、馬の故障は騎手にも責任があるのだろうか? 馬を管理する調教師が責任を負うべきではないのか? 故障している馬を、検査もせず出走させた運営側にも非があるのではないか? また、これがもっとも重要な点だが、もしロドリゲス騎手がラッフスターに騎乗していれば、彼は間違いなく免許取り消しになっていた。騎乗を避けるという選択をしたことで、6ヶ月の騎乗停止で救われたのである。


 採決書は現地時間6月20日の22時15分に発表されたため、まだ現地メディアが正式な報道や見解を出していない。そのため、制裁の理由や状況については、今後修正される可能性があることを留意してほしい。とはいえ、レースに騎乗しなかった騎手が、そのレースが原因で半年間もの騎乗停止処分を課されたとは、様々な理由で重い制裁が下されるベネズエラ競馬といえど、前代未聞の事例である。


■ ラッフスターの競走成績


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木下 昂也(Koya Kinoshita)

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