• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

南米ではどうやって馬名がつけられるのか?

南米での命名ルールは?


 日本では馬名をつける際にいくつかの制約が課される。2文字以上9文字以内であること、ブランド名や商品名・曲名・映画名・著名人などが含まれてはいけないこと、放送禁止用語に該当するような言葉を含んではいけないこと、などである。したがって、日本で「プレステ」や「オオタニショウヘイ」という馬名をつけるのは不可能である。


 一方、南米ではこれといった制約がない。もちろん卑猥な単語や放送禁止用語は使えないが、過去には「ケ(Que)」や「フ(Hu)」のようにカタカナにすれば1文字になる馬名や、ビックリマーク(!)の含まれた馬名があった。1942年のことになるが、ブラジルには "I" というアルファベット1文字の馬もいた。ニンテンドー(Nintendo)、ポケモンゴー(Pokemon Go)、ディズニーウォルト(Disney Walt)、シティーアンドザセックス(City And The Sex)、タオパイパイ(Tao Pai Pai)、マイケルジョーダン(Michael Jordan)。日本では絶対に認められないこれらの馬名も実在する。「オオタニショウヘイ」という馬名をつけることも可能だろう。


ポイント ☛ 南米では自由に馬名をつけることができる。




南米にも冠名はあるのか?


 トーセン、ショウナン、ダノン、シゲル、マイネル……。日本競馬ではお馴染みの冠名は、はたして南米にも存在するのだろうか? 


 結論から先に述べると、南米にも冠名はある。しかし、日本の冠名とはややニュアンスが異なる。日本では馬の命名権は馬主にあるので「冠名=馬主」となるが、南米では生産牧場に命名権があるので「冠名=牧場」となることが多い。もちろん、馬主が名前をつける場合もあるので、必ずしもあてはまるわけではないのを注意してほしい。


 もっとも有名な冠名は、ブラジルの「オリンピック」だろう。オリンピックインパクト(Olympic Impact)、オリンピックジョンスノー(Olympic Johnsnow)、オリンピッククレムリン(Olympic Kremlin)など「オリンピック○○」という名を持つ馬は、ヘジーナ牧場で産まれた馬、もしくは、ヘジーナ牧場の所有馬であることを証明する。


 同じくブラジルのエストレーラ・エネルジーア牧場の生産馬には、「エネルジーア」という冠名がつけられた。エネルジーアフリビー(Energia Fribby)、エネルジーアガローア(Energia Garoa)といった馬がこれに該当する。


 ベネズエラのアサトランという馬主グループは、マイランニングメート(My Running Mate)やマイレーシングメート(My Racing Mate)のように、マイ+名前+メートというサンドウィッチ形の冠名を持つ。


ポイント ☛ 南米にも冠名がある。




父名の一部


 日本ではディープインパクト産駒にはディープブリランテやラストインパクト、ハーツクライ産駒にはマジェスティハーツやギュスターヴクライと、父の名前を仔の馬名に組みこむことがある。しかし、ディープインパクト産駒には必ず「ディープ」を、ハーツクライ産駒には必ず「ハーツ」をつけなければならないというルールはないし、むしろ、父の名前を受け継いだ馬名は、父の名前を持たない馬と比べて少ないだろう。


 南米では比較的自由に馬名をつけられると述べた。だが、生産牧場が独自の命名ルールを敷いている場合がある。その1つが、必ず父名の一部を使うということである。したがって、南米では「ディープ○○」的な馬名や、「○○クライ」的な馬名が多く存在する。


 シアトルフィッツ(Seattle Fitz)は2、010年から2015年にかけてアルゼンチンのフィルマメント牧場で種牡馬として供用された。同牧場で産まれたシアトルフィッツ産駒には、ジュリエットシアトル(Giuliet Seattle)、グローリーシアトル(Glory Seattle)、シアトルマット(Seattle Mat)と、ほぼ必ず馬名に「シアトル」が含まれる。また、フィルマメント牧場にはヒットイットアボム(Hit It A Bomb)とスーパーセイヴァー(Super Saver)もシャトルされたが、前者の産駒は必ず「ヒット○○」もしくは「○○ボム」と名づけられ、後者の産駒は「スーパー○○」と名づけられる。したがって、「シアトル」、「ヒット」、「スーパー」をフィルマメント牧場の冠名とみなすこともできる。


 同様のルールが、アルゼンチンのラ・ビスナーガ牧場で種牡馬となった日本産馬ハットトリック(Hat Trick)にも適用された。同牧場で産まれたハットトリック産駒には、牡馬にはハットプンターノ(Hat Puntano)やハットマリオ(Hat Mario)のように「ハット」が、牝馬にはベトゥーラトリック(Betula Trick)やエルニートリック(Eluney Trick)のように「トリック」が用いられた。


ポイント ☛ 南米の馬名は父名の一部を含めることが多い。


■ 「シアトル」だらけのシアトルフィッツ産駒。シアトルがつかない馬は、フィルマメント牧場の生産馬ではないことを示す。




種牡馬ごとに決められた名前


 現在は解散したアルゼンチンのラ・ビスナーガ牧場は、上記のハットトリックの例で見たように、命名に関して独自のルールを持っている牧場だった。


 同牧場ではインクルード(Include)が2009年から2011年まで種牡馬として供用されていた。インクルード産駒には必ず「○○インク」と名づけられた。ソシオロガインク(Socióloga Inc)、ソブラドーラインク(Sobradora Inc)、サンバインク(Samba Inc)、ボカインク(Boca Inc)、ドンインク(Don Inc)、彼らはラ・ビスナーガ牧場で産まれたインクルード産駒であることが、馬名を見るだけ分かる。


 ラ・ビスナーガ牧場ではフォーティファイ(Fortify)も繋養されていた。フォーティファイ産駒には必ず「ジョイ」が用いられた。牡馬の場合はローマンジョイ(Roman Joy)、セテアードジョイ(Seteado Joy)、ラックジョイ(Luk Joy)のように「○○ジョイ」と後ろに置かれ、牝馬の場合はジョイニキータ(Joy Nikita)、ジョイエピフォラ(Joy Epifora)、ジョイカネーラ(Joy Canela)のように「ジョイ○○」と前に置かれた。馬名を見るだけで、その馬の父、生産牧場、性別まで分かるのは、ファンにとっては非常に便利である。


ポイント☛ 種牡馬によって用いられる名前が異なる。


■ ラ・ビスナーガ牧場で産まれたフォーティファイ産駒には「ジョイ」がつく。

※ナスティア(Nastia)はラ・ビスナーガ牧場で産まれたが「ジョイ」を持たない。初めはジョイニセータ(Joy Niceta)という名前がつけられたが、後にマダム・ファーブル(アンドレ・ファーブル調教師の奥様)に売却され、ナスティアと改名されたためである。




父のイニシャル


 ドイツの馬が母馬のイニシャルを受け継ぐというのは知られた話である。たとえば、1995年にジャパンCを優勝したドイツ産馬ランド(Lando)は、母が"Laurea"、母母が"Licata"、母母母が"Liberty"、母母母母が"Lis"と、頭文字"L"を継承している。


 南米の場合は、母のイニシャルではなく、父のイニシャルに縛られることがある。アルゼンチンのエル・パライソ牧場は、2021年に産まれた仔馬の名前をインスタグラムで募集する際、命名の注意点としてアンヒオーロ産駒は"A"から、イルカンピオーネ産駒は"E"から、マスターオブハウンズ産駒は"M"から始まることを求めた。これまで同牧場で誕生したマスターオブハウンズ産駒を見てみると、ママコール(Mama Call)、マステルソイ(Máster Soy)、メガワット(Megawatt)と、いずれも馬名は"M"から始まる。


ポイント☛ 父の頭文字を使うという命名ルールもある。


■ エル・パライソ牧場のマスターオブハウンズ産駒は"M"から始まる。Mではない馬は、エル・パライソ牧場の生産馬ではないと分かる。




まとめ


① 基本的にはどのような馬名でもつけられる。

例:1音節、特殊記号、ポケモンゴーのような商標、マイケルジョーダンのような人名


② 冠名が存在する。

例:オリンピック○○、エネルジーア○○、マイ○○メート


③ 父名の一部を取る。

例:シアトルフィッツ産駒 ⇒ シアトル○○、ハットトリック産駒 ⇒ ハット○○


④ 種牡馬によって決められた名前がある。

例:インクルード産駒 ⇒ ○○インク、フォーティファイ産駒 ⇒ ジョイ○○


⑤ 父名のイニシャルを受け継ぐ。

例:アンヒオーロ産駒 ⇒ "A"から始まる馬名、マスターオブハウンズ産駒 ⇒ "M"から始まる馬名


 生産牧場によって独自の命名ルールが存在するため、こうしたルールを覚えてしまえば、ある馬がどの牧場で産まれたどの種牡馬の産駒なのか、馬名を見ただけで判断できることがある。南米では自由に馬名をつけることができるが、日本以上にシステマチックに名づけられる印象である。


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