• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

南米で供用される新種牡馬たち:アルゼンチン、ウルグアイ、チリ、ブラジル、ペルー

 上半期のGⅠシーズンを終え、日本の競馬はひと段落ついたが、南米の競馬はこれからが本番である。7月から3歳戦が始まり、3冠競走へ向けた争いが過熱する。また、馬産のシーズンが幕を開ける。今年も多くの種牡馬が新たに南米へ送られた。今回は、今年から南米で供用されることになったニューフェイスたちを紹介する。



ウルグアイ


 南米諸国で最大のサプライズをもたらしたのがウルグアイである。今年2月、21の生産牧場が連合を組み、2013年のケンタッキー・ダービー馬であるオーブ(Orb)の所有権をクレイボーン・ファームから購入したことが発表された。オーブは連合の中心であるクアトロ・ピエドラス牧場で繋養され、今年から種牡馬として供用される。これほどの大物がウルグアイに来るとは、それもシャトル契約ではなく購入だとは驚きである。


「これはウルグアイ競馬界にとって重要な1歩である。ケンタッキー・ダービー馬にしてフロリダ・ダービー馬、そして3冠競走すべてで掲示板に載った馬を連れて来られるなんて滅多にない。母系も素晴らしい。アメリカではすでに勝ち馬も輩出している。北米市場は非常に複雑である。そのため、ウルグアイのように限られたリソースしか使えない競馬界では、オーブ級の馬を連れてくるのに生産者が協力し合う必要があった」と、ウルグアイのラ・コンコルディア牧場のラウール・グスタボ・カサラス氏は述べた。オーブは、エクレシアスティックの独壇場となっているウルグアイ生産界に革命をもたらすことができるか。


 6月には、フィリップソン牧場がウィルテイクチャージ(Will Take Charge)ミッドシップマン(Midshipman)をシャトル種牡馬として契約した。2頭は2021年末までウルグアイに滞在する。ウィルテイクチャージは昨年もウルグアイで種付けしたが、ミッドシップマンはこれがウルグアイ初上陸である。これまでブラジルとチリにシャトルされた経験があり、すでに両国でGⅠ馬を輩出している。南米3ヶ国目となるウルグアイでも同様の活躍が期待される。



チリ


 スキャットダディ、カリフォルニアクロームとビッグネーム慣れしているのがチリである。今年もオーブほどではないがアメリカから大物がやって来る。2020年のGⅠベルモントSを優勝したコンスティテューション産駒のティズザロー(Tiz The Law)である。


 ティズザローは、カレンブーケドールの母ソラーリアの産まれ故郷としても有名なパソ・ネバード牧場でシャトル種牡馬として繋養される。ライバルのドン・アルベルト牧場がコンスティテューション(Constitution)を導入して大成功をおさめたため、こちらもコンスティテューション種牡馬で対抗しようという意図だと推測される。コンスティテューションの半弟であるアオーラ(Ahora)も初年度から重賞馬を出すなど、チリはコンスティテューション関連の血が育まれやすい土壌と言える。


 ヒラボクディープが繋養されているマトリアルカ牧場は、リダウツチョイス産駒のムスタキーム(Mustaaqeem)を種牡馬として購入した。ムスタキームは2014年にオーストラリアで産まれ、マイク・デ・コック調教師の下、南アフリカで競走生活を送った。2017年にGⅠサウス・アフリカン・ナーサリー(芝1160m)を優勝し、同国の最優秀2歳牡馬に選出された。リダウツチョイス種牡馬は南米初上陸となる。同馬を購入したサウス・アメリカン・ブラッドストックのネルソン・セプルベダ氏は大きな期待を寄せている。


 モシート・グアポ牧場はキングリー(Kingly)を輸入した。現役時代はGⅢ勝ちのみだが、同馬の父はタピットで、半兄にニューイヤーズデイがいるという超良血馬である。チリでは4頭目となるタピット種牡馬、期待するなというほうが難しい。



ブラジル


 ブラジルにも将来有望な新戦力が加わった。それが2013年のBCジュヴェナイル・ターフの勝ち馬アウトストリップ(Outstrip)である。エテルナメンチ・ヒオ牧場、ヒオ・ドイス・イルマノス牧場、オールド・フレンズ牧場、フロンテイラPAP牧場、ファゼンダ・モンデシールといったブラジルを代表する生産牧場を中心に計29牧場が連合を組み、ダーレーから同馬の所有権を買い取った。アウトストリップはその中のファゼンダ・モンデシールで繋養される予定である。


 ブラジルは種牡馬の高齢化が進んでいる。リーディング上位を占める種牡馬は、アグネスゴールド(Agnes Gold)、プットイットバック(Put It Back)、ワイルドイヴェント(Wild Event)、パイオニアリング(Pioneering)、T.H.アプルーヴァル(T.H. Approval)、レダットーレ(Redattore)と高齢馬・死亡馬が多い。大きな期待を抱いて導入したニューイヤーズデイ(New Year's Day)は日本に買われ、ハットトリック(Hat Trick)は2020年8月に亡くなった。世代交代が求められている現状で、アウトストリップは多くの種付け機会に恵まれるだろう。


  6月末には、サンタ・ヒタ・ダ・セハ牧場がキングマン産駒のサンガリアス(Sangarius)を今年から種牡馬として導入すると発表した。シャトルでの契約ではなく購入である。キングマン種牡馬は南米初上陸となる。サンタ・ヒタ・ダ・セハ牧場はアグネスゴールドとハットトリックを主力としていたが、前者は2020年かぎりで種牡馬を引退し、後者は2020年8月に亡くなった。サンガリアスの導入は2頭の穴埋めという意図だろう。同牧場は「牧場のさらなる歴史の1ページとなる」と期待を寄せている。



ペルー


 ペルーは3頭の種牡馬をアメリカから輸入した。


 ニューイヤーズデイ産駒のバーボンレゾリューション(Bourbon Resolution)を購入したのは、ヒーナ・サンタ・ロサ牧場である。アメリカGⅢ勝ちの能力を産駒に伝えたい。


 キャンディライド産駒のドラフトピック(Draft Pick)は、ハミド・ステーブル、ランチョ・スル牧場、ロス・エウカリプトス牧場、エル・エラヘ牧場が共同で購入した。キャンディライド種牡馬がペルーに来るのはこれが初である。


 サン・パブロ牧場は、アメリカのオカラ・スタッドからオチョオチョオチョ(Ocho Ocho Ocho)を種牡馬として購入した。牧場長のエドゥアルド・ビジャラン・ギャラガー氏は、「我々が所有している繁殖牝馬と相性の良い種牡馬になってくれる。オチョオチョオチョは非凡なスピードに加え、豊富なスタミナを示した。血統的にも、重賞競走の距離を走れる産駒を輩出してくれるだろう。父のストリートセンスは現在もっとも優秀な種牡馬の1頭であるし、母系にパーソナルエンサインがいるのも素晴らしい」と述べた。



アルゼンチン


 アルゼンチンと上記4ヶ国との大きな違いは、『助っ人外国人』に頼らないということである。良い素材が国内に豊富にあるため、内国産種牡馬の地位が守られ、輸入種牡馬に頼る必要があまりない。名より実を取る傾向がある。したがって、オーブやティズザローのようなメジャー級の新顔はいない。


 4月、コルドバ州にあるエル・コラへ牧場は、ディストーテッドヒューマー産駒のキングヒューマー(King Humor)を購入した。アルゼンチンではルフク、ロアー、エンドースメント、フォーティファイといった種牡馬が成功したため、フォーティーナイナー種牡馬(ディストーテッドヒューマー種牡馬)に対する人気が高い。アルゼンチンの馬産はブエノスアイレス州に集中しているが、フォーティーナイナーの血を持つキングヒューマーによって、アルゼンチン第2の馬産地であるコルドバ州の馬質が上がるのではないかと予想されている。


 5月には、エル・パライソ牧場がオーストラリア産馬のムータサディール(Mootasadir)をシェイク・モハメド氏から購入した。同牧場のビクトリア・ドゥガン女史は、「種牡馬としてのポテンシャルを引き出せるよう、ムータサディールには多くの機会を与えるつもりである。アルゼンチン生産界をリードするような種牡馬になってほしい。シャトル種牡馬としての契約ではない。ずっとエル・パライソ牧場で種付けを行なう。ムータサディールの母は南アフリカの最優秀2歳牝馬に輝いた素晴らしいガリレオ牝馬であるし、繁殖実績もある」と述べた。アルゼンチンにおけるダンシリ種牡馬は、フィルマメント牧場のリモート(Remote)、アレントゥエー牧場のストラテジックプリンス(Strategic Prince)に続いて3頭目である。


 6月には、コンスティテューション産駒のガバヌーアモリス(Gouverneur Morris)がアルゼンチンで種牡馬になることが決まった。同馬を購入したのはラ・パシオン牧場、ラス・ライセス牧場、ラ・ノーラ牧場の3牧場であり、繋養先はラ・パシオン牧場になる。重賞勝ちはないがGⅠでの好走歴がある。コンスティテューション種牡馬はアルゼンチン初上陸で、チリでの大成功がアルゼンチンにも訪れるか。


 内国産馬では、ダニエルブーン(Daniel Boone)が今年からドン・テオ牧場で種牡馬入りする。気をつけたいのが、こちらはダニエルブーン(ARG)であり、ダニエルブーン(BRZ)もすでにサンタ・マリア・ヂ・アラーラス牧場で種牡馬となっていることである。同名の種牡馬が同時期に同地域で存在するとは珍しい。


 2020年のGⅠラティーノアメリカーノを優勝して南米王者に輝いたイークワルストライプス(Equal Stripes)産駒のテターセ(Tetaze)は、怪我によって今年6月に現役引退が決まり、ラ・ミッション・ロブレス牧場で種牡馬となる。今年22歳と高齢になった父の産駒でもっとも成功した牡馬であり、後継種牡馬の筆頭である。


 2019年の最優秀短距離馬スプリングドム(Springdom)は昨年現役を引退し、今年からエル・パライソ牧場で供用される。昨年4月に亡くなったセビヘイロー(Sebi Halo)の産駒で唯一GⅠを勝った牡馬であるため、後継としての職務を一身に背負う。


 最後に、アルゼンチンGⅠ4勝のストラテゴス(Strategos)は、右脚の腱を負傷して今年7月に引退となり、エル・パライソ牧場で種牡馬入りすることが同馬を所有するオホス・クラーロス牧場から発表された。オホス・クラーロスはキャンディライド(Candy Ride)のアルゼンチン時代の所有者であり、ストラテゴスの母父もキャンディライドであることから、キャンディライドのような活躍が今から期待されている。ムータサディール、スプリングドム、ストラテゴスと、エル・パライソ牧場は今年だけで3頭のニューフェイスを迎える。


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木下 昂也(Koya Kinoshita)

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