• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

南米のスターホースが続々と北米デビュー

 南米から北米へ。


 これは南米のトップホースが必ずと言っていいほど辿る道程である。彼らは、あるいは彼女らは、南米競馬の期待を背負い、競馬先進国アメリカに殴りこむ。この流れの中から数々の名馬が誕生した。たとえば、アルゼンチンのキャンディライド(Candy Ride)、チリのリドパレス(Lido Palace)、ウルグアイのインバソール(Invasor)、移籍した地域は違えど、ブラジルのグローリアヂカンペアン(Glória de Campeão)などである。


 昨年も多くの南米GⅠ馬が北米に移籍した。新たな環境への適応と調教を済ませ、今週末、3頭の有力馬が北米初戦を迎えた。グレートエスケープ、ブレークポイント、フィーロディアリアンナの3頭である。


 グレートエスケープ(Great Escape)は父イークワルストライプス、母父キャッチャーインザライという血統のアルゼンチン産4歳牡馬である。昨年アルゼンチンのダービーにあたるGⅠナシオナルを15馬身差で圧勝した。ただのダービー馬ではない。この年のナシオナルは、急死したアルゼンチンの英雄ディエゴ・マラドーナ氏を追悼する意味を込め『ナシオナル・ディエゴ・アルマンド・マラドーナ・カップ』となった。グレートエスケープは「マラドーナが亡くなった年のダービー馬」なのである。ナシオナル後にアメリカで開業しているアルゼンチン人のイグナシオ・コレーアス調教師の下に移籍した。


 6月26日のチャーチルダウンズ競馬場4Rでアメリカ・デビューを果たしたグレートエスケープは、2番人気に支持されたものの、スタートから終始チグハグな競馬を強いられ、最後方から良い脚で伸びたが、結果は8頭立ての5着と奮わなかった。



 ブレークポイント(Breakpoint)は父コンスティテューション、母父シーキングザダイヤという血統のチリ産4歳牡馬である。母サファウィはシーキングザダイヤに初めてチリ重賞をプレゼントした馬である。昨年は5戦5勝、GⅠ3勝という圧倒的な成績をおさめると、チリのダービーには目もくれず、アメリカのチャド・ブラウン厩舎に移籍した。


 6月27日のベルモントパーク競馬場8Rでアメリカ・デビューを迎えた。評判を買われて圧倒的1番人気に支持されたが、スタートでやや立ち遅れて後方追走となり、直線はまずまず伸びたが、6頭立ての4着に敗れた。



 結果だけ見れば、やはり南米馬は大したことがないと思われるかもしれない。しかし、日本馬がぶっつけ本番でロンシャン競馬場を走れないように、ヨーロッパの強豪がジャパンCを勝てないように、異国の地で初めから結果を残すのは難しいということを忘れてはならない。例を挙げると、いまや現役アメリカ最強牝馬と言っても過言ではないメキシコのレトルスカ(Letruska)も、アメリカ初戦は13頭立ての13着だった。昨年アメリカGⅠを勝ったブラジルのイバール(Ivar)も、初戦は鞍上と手が合わずに引っかかって5着に敗れた。グレートエスケープとブレークポイントも、一度叩いた次走は確実に上昇できる。とりわけ、アメリカの競馬場どころか、右回りすら初体験だったブレークポイントには引き続き注目しなければならない。


 外国の競馬でいきなり結果を出すのは難しい。その困難をあっさりと打ち破ったのが、6月27日のウッドバイン競馬場3Rで北米初出走を果たしたブラジル産馬フィーロディアリアンナ(Filo Di Arianna)である。3番手追走から直線抜け出すと、2着に2 1/4馬身差をつける快勝をおさめた。


 フィーロディアリアンナは父ドロッセルマイヤー、母父ノーザンアフリートという血統の5歳牡馬。半弟にはアグネスゴールド産駒のGⅠ馬クーロエカミーチャ(Culo E Camicia)がいる。2歳時に重賞を2勝し、2018/19シーズンのブラジル最優秀2歳牡馬に選出された後、カナダのマーク・キャッセ調教師の管理馬となった。当初はアメリカで走る予定だったが、様々な問題が生じ、ようやくのカナダでのデビューとなった。前走は2019年4月28日で、これが実に約2年ぶりとなるレースだったが、まったく問題なかった。今回の勝利で通算成績は4戦4勝と、いまだ無敗を維持している。重賞を勝つ日もそう遠くないだろう。


 アメリカにはまだデビューしていない南米の大物が3頭いる。チリで圧勝に次ぐ圧勝劇を披露したコンスティテューション産駒のファーストコンスティテューション(First Constitution)、無敗でブラジル牝馬3冠を達成したアグネスゴールド産駒のジャネールモネイ(Janelle Monae)、BCディスタフで半姉ブループライズとの姉妹制覇を狙うアルゼンチンのブルーストライプ(Blue Stripe)である。これらの馬も、デビューから数戦は苦労するだろうが、それなりの結果を残してくれるに違いない。1戦の結果だけで格下と切り捨てるのは浅はかである。


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木下 昂也(Koya Kinoshita)

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