• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

南米の濃ぃ~配合

 以前、『2018年産ハットトリック産駒一覧』という記事を書いた。ブラジルのスタッドブックを使って調べたのだが、そのときに衝撃的な出会いがあった。2019年8月10日に産まれたウクラニア(Ucrânia)という馬が、父ハットトリック、母父アグネスゴールド、すなわち、サンデーサイレンスの2×3という血統の持ち主だったのである。


◆ ウクラニアの血統表



 日本ではガッツザファイトチビキセキの2頭がサンデーサイレンスの2×3を持つ。また、クリスマスの2019が父オルフェーヴル、母母父ステイゴールドで、ステイゴールドの2×3という組み合わせである。サンデーサイレンスの本場日本でも、サンデーサイレンスの2×3という血統は非常に珍しいのだが、その配合が地球の裏側で誕生するとは思いもよらなかった。


 2021年2月12日現在、ブラジル・スタッドブックにハットトリックの産駒は226頭登録されている。決して多いとは言えない。にもかかわらず、こんなにもチャレンジングな配合が許されるとは驚きである。そこで1つの仮説を思いついた。南米には近親交配から産まれた馬が多いのではないか?


 今回は、南米で誕生した濃厚なインブリードを紹介する。データは2000年前後からで、調べやすさの都合によりアルゼンチンがメインになっている。



やや攻めた2×3


 2×3のインブリード(父父と父父父が同じに限定する)を持つ馬は少なくない。たとえば、ストームキャットの2×3という血統の馬はアルゼンチンだけで202頭も誕生し、うち67頭が競走馬となっている。父ハリケーンキャット×母父イージングアロングや、父ピュアプライズ×母父グランドリウォードといった組み合わせがストームキャットの2×3となる。ちなみに、ストームキャットの3×2となる馬も4頭いるが、競走馬となったのはヒリーフィリー(Hilly Filly)という1頭だけである。


◆ ストームキャットの2×3を持つ馬でもっとも賞金を稼いだマエストロキャップ



 ミスタープロスペクターの2×3という馬はアルゼンチンだけで146頭産まれている。そのうち63頭が競走馬としてデビューし、ストライクウィロー(Strike Willow)という牝馬はGⅢを3勝する活躍を見せた。また、クイーンタンゴ(Queen Tango)という牝馬は繁殖牝馬としてケフェリシダー(Que Felicidad)、ケブエナビダ(Que Buena Vida)という2頭の重賞馬を輩出した。


◆ ミスタープロスペクターの2×3を持つ活躍馬ストライクウィロー



 サザンヘイローの2×3も数において目立つ。これまで100頭産まれており、うち競走馬となったのは21頭いる。しかし、もっとも活躍したのは、2勝をあげたドニャエボカーダ(Doña Evocada)どまりである。


◆ サザンヘイローの2×3を持つドニャエボカーダ



 以上のことから推測できるのは、「数打ちゃ当たる」ということである。つまり、その国の人気種牡馬であればあるほど産駒数が多くなり、インブリードの濃い馬が産まれる可能性も高くなる。他にも2×3の例をいくつか挙げる。※()内は競走馬としてデビューした馬の頭数。


・シパーヨの2×3 40頭(14頭)

・キャンディーストライプスの2×3 29頭(9頭)

・ダンチヒの2×3 16頭(7頭)

・シーキングザゴールドの2×3 15頭(1頭)

・エーピーインディの2×3 6頭(4頭)

・ヘイローの2×3 5頭(3頭)

・ムタクディムの2×3 5頭(0頭)

・デインヒルの2×3 4頭(1頭)

・ロードの2×3 3頭(2頭)

・インテルプレテの2×3 2頭(0頭)

・ジャイアンツコーズウェイの2×3 2頭(0頭)

・ロイの2×3 1頭(0頭)

・ニューメラスの2×3 1頭(0頭)

・シアトルスルーの2×3 1頭(0頭)

・イークワライズの2×3 1頭(0頭)



かなり攻めた2×2


 2×3でも充分珍しいはずだが、調べているうちに「なんだか結構いるなぁ」という錯覚に陥ってしまった。そこで数字を減らすことにした。2×2というインブリード(父父と母父が同じ)を持つ馬はどのくらいいるのか?


 さきほどの「数打ちゃ当たる」推測に沿って調べてみた。すると、ストームキャットの2×2を持つ馬が1頭いた。父アップワードトレンド×母父ストームキャットのクロスブリーディング(Cross Breeding)という2018年8月30日産まれの牡馬である。名前からして意図的に狙った配合なのだと思う。しかし、産まれてわずか1ヶ月後の10月1日に早世した。


◆ ストームキャットの2×2を持つクロスブリーディング



 サザンヘイローの2×2に関しては4頭もいる。しかし、4頭とも父マイゴーラン×母ビエハフィフィという組み合わせである。そして、4頭とも競走馬としては走っていない。トムリドル(Tom Riddle)が2018年産なので、この馬が今後デビューする可能性はある。


◆ サザンヘイローの2×2を持つトムリドル



 以下、その他の2×2を記載した。意外にも、ミスプロの2×2という馬はアルゼンチンには登録されていない。

※()内は競走馬としてデビューした馬の頭数。


・シパーヨの2×2 6頭(0頭)

・フォルリターノの2×2 5頭(2頭, Forli Lucho と Forli Braian)

・ルフクの2×2 3頭(0頭)

・イージングアロングの2×2 2頭(0頭 ※2頭とも2020年産)

・インキュラブルオプティミストの2×2 2頭(0頭)

・キャンディライドの2×2 2頭(0頭)

・ムタクディムの2×2 1頭(1頭, Doblemut)

・レインボーコーナーの2×2 1頭(1頭, El Pedrito)

・オクタンテの2×2が1頭(0頭)

・セカリの2×2 1頭(0頭)

・ロードの2×2 1頭(0頭)


◆ ムタクディムの2×2を持つドブレムット



 濃いインブリードを持つ馬には2つの共通点がある。1つ目は、無事に競走馬になれた馬の頭数は非常に少なく、活躍馬もまったくいないことである。2つ目は、ほとんどの産駒が同じ父母の組み合わせから産まれたということである。フォルリターノの2×2を持つ5頭は、父ダコフォルリート×母ダコフォルリパルマから産まれたのが2頭、父ダコフォルリート×母ダコフォルリムーから産まれたのが3頭である。