• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

南米競馬トンデモ制裁集

 海外に住んでいたり、海外旅行をしたりすると、日本の常識では考えられない体験や経験をすることがあります。それは競馬にも当てはまります。日本競馬では絶対に考えられないようなことが海外競馬では起こります。そこで今回は、南米競馬で起こった、しかし、日本競馬では絶対に起こらないであろう制裁5選を紹介します。



エントリーNo.1 棚からぼた餅2つ


2016年3月12日 ガヴェア競馬場(ブラジル)

GⅠラティーノアメリカーノ


 競馬の南米選手権とも言われ、南米各国の代表馬が凌ぎを削るGⅠラティーノアメリカーノ。そんな南米最高峰のGⅠ競走でまさかの事件が起こりました。


 入線順は、1着:②ドンインク号、2着:⑦ユニヴァーサルロー号、3着:⑬サムインティエム号、4着:⑫ダニエルブーン号。しかし、2着入線のユニヴァーサルロー号が、最後の直線で4着入線のダニエルブーン号の走行を妨害し、4着に降着となりました。確定順は1着:ドンインク号、2着:サムインティエム号、3着:ダニエルブーン号。


 これで決着かと思われましたが、レースから2ヶ月後、1着入線のドンインク号から禁止薬物スタノゾロールが検出され、同馬には失格処分が下されました。したがって、3着入線のサムインティエム号がまさかの繰り上げ優勝となりました。なお、ドンインク号を管理していたカルロス・エチェチュリー調教師には180日の資格停止となりました。



エントリーNo.2 意味不明


2020年3月14日 サン・イシドロ競馬場(アルゼンチン)

GⅠラティーノアメリカーノ


 ⑥ナオンダマイス号とカルロス・ラボール騎手は、南米版凱旋門賞とも言われるGⅠカルロス・ペジェグリーニの前年の優勝馬であり、このレースでも本命馬の1頭に支持されていました。しかし、最後の直線に入ると、隣を走っていた⑭インペラドール号をコースの外へ追いやる妨害をゴール板まで続けました。ナオンダマイス号は5着入線でしたが、当然、インペラドール号の後ろである7着に降着となりました。


 ナオンダマイス号は南米を代表する競走馬、ラヴォール騎手はブラジルの名騎手です。なぜこのような愚行に走ったのか? 馬場の外を走りたかったやら、レース中に口論があったやらと様々な推測が飛びましたが、当人が口を噤んでいるため、理由は今でも不明です。被害者であるアルタイル・ドミンゴス騎手もまったく分からないと述べています。

  アルゼンチン・ジョッキークラブは調査に乗り出しました。しかし、2つの不運に見舞われました。1つは、加害者がブラジルから遠征してきた馬と騎手であり、聞き取りをする前に帰国してしまったこと。もう1つが、新型コロナウイルスによって南米競馬全体が混乱に陥ったこと。そのため、処分を決めるどころではなくなってしまいました。


 レースから7週間が経った5月4日になって、ようやくアルゼンチン・ジョッキークラブからラヴォール騎手に対する開催20日の騎乗停止が発表されました。しかし、ブラジル・ジョッキークラブは、騎乗停止に関する協定を結んでいないこと、7週間も前の出来事であることを理由に、アルゼンチン側の制裁を完全無視しています。ラヴォール騎手はブラジルで平然と騎乗を続けています。



エントリーNo.3 熱男


2019年5月27日 ラ・リンコナーダ競馬場13R(ベネズエラ)


 一騎打ちになって「あっ、これは負ける……」と分かったら、騎手には何ができるでしょうか? 多くの騎手が渋々ながら負けを受け入れるのではないでしょうか。中には、相手の進路をちょっと妨害してでも競り続ける騎手がいるかもしれません。しかし、ベネズエラの若き天才シプリアーノ・ヒル騎手が取ったのは、熱すぎる手段でした。


 レースは1番人気⑦ブラックパンター号と、2番人気⑬ウナペルトゥッティ号の激しい叩き合いの末、ウナペルトゥッティ号に軍配が上がりました。しかし、よく見てみると、ウナペルトゥッティ号に騎乗していたヒル騎手は、追い比べのどさくさに紛れて、ブラックパンター号の顔面を鞭で2発叩いています。もちろん、着順は入れ替わりました。


 ヒル騎手は裁決委員に対して、意図的ではなかった主張しました。たしかに、馬がヨレたのを矯正するために打った鞭が、たまたま被害馬の顔に当たってしまったように見えなくもありません。


 制裁に関しては調べても出てきませんでした。6月1日のレースには騎乗していることから、おそらく戒告程度で済まされたのでしょう。


 ヒル騎手の名誉のために補足しておきますが、彼は1999年7月14日生まれの20歳で、アメリカで活躍しているハビエル・カステジャーノ騎手、エミサエル・ハラミージョ騎手と肩を並べる可能性を秘めたベネズエラ期待の若手騎手とされています。



エントリーNo.4 必殺技(基礎編)


2014年12月13日 サン・イシドロ競馬場(アルゼンチン)

GⅠカルロス・ペジェグリーニ


 南米だけでなく、競馬界全体でたま~に起こる事例を紹介します。


 このレースで⑨インテルデット号に騎乗していたパブロ・ファレーロ騎手は、自分の馬の脚がなくなって直線半ばでレースを諦めました。そこに、ロドリゴ・ブランコ騎手騎乗の⑩キングコン号が後ろから迫ってきました。しかし、ブランコ騎手はある問題を抱えていました。道中で鞭を落としてしまったのです。彼はファレーロ騎手に「鞭を貸してくれ!」と叫びました。すると、ファレーロ騎手は残り250m地点で器用に鞭を手渡しました。気になる結果はというと、インテルデット号は14着、鞭をもらったキングコン号も12着で、まったくの意味なし。


 着順の変更や失格はありませんでしたが、アルゼンチン・ジョッキークラブは『鞭渡し』をプロの騎手としてふさわしくない行為とみなし、両騎手に対して開催45日の騎乗停止という厳しい処分を下しました。ファレーロ騎手は自らの過ちを認め、ブランコ騎手もファレーロ騎手に申し訳ないことをしたと反省しました。



エントリーNo.5 必殺技(応用編)


2019年11月19日 ラ・プラタ競馬場(アルゼンチン)

GⅠホアキン・V・ゴンサーレス


 この記事のラストを飾るのは、『鞭渡し』の応用編であり、おそらく世界の競馬史に刻まれたであろうトンデモ制裁です。


 ⑫ジョイフィローソ号に騎乗していたルイス・バイ騎手は、レース中に鞭を落としてしまいました。どうしても鞭が欲しかったバイ騎手ですが、前述のロドリゴ・ブランコ騎手のように「鞭を貸して!」とお願いするという面倒(礼儀)をしませんでした。彼がやったのはなんと、ゴールまで残り180mのところで、隣を走っていた⑬メガワット号のホセ・ダ・シルバ騎手から鞭を奪い取ったのです。しかし、結果は10着と、これまた意味なし。


 バイ騎手には開催30日の騎乗停止が課されました。不可解なのは、被害者であるダ・シルバ騎手にも、意図的に渡した可能性を否めないとして、開催5日の騎乗停止を命じられたことです。当然、ダ・シルバ騎手は抗議しましたが、裁決は覆りませんでした。


 ちなみに、このレースの勝ち馬クラシックライ号は、レースから2ヶ月後に禁止薬物ベタメタゾンが検出されて失格となりました。2着のアティコアイ号が繰り上がり優勝となったのですが、騎乗していたのはマリーア・アスコニーガという女性騎手。なんとも情報過多なレースでした。



 いかがでしたでしょうか? 『世界トンデモ映像』のようなテレビ番組では、よく南米の国で撮られた動画が出てきますが、競馬においても南米競馬のトンデモ事例は多いような気がします。世界中を探してみれば、もっと笑える、もしくは、唖然とさせられる競馬シーンがあるかもしれません。「こんなのあったよ!」と推薦したくなるような映像を見つけたら、ぜひ教えてください。


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