• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

感情一族、フィルマメントの代表血統


エモーションオーペン(Emotion Orpen) 写真:Ezequiel Valle https://twitter.com/ValleEzequiel/status/1389217936662011908

感情一族


 アルゼンチンのフィルマメント牧場は、2000年から2019年の20年間で通算17度も最優秀生産牧場に選出されただけでなく、所有者としても5度の最優秀馬主に輝いた。そんなアルゼンチンNo.1生産牧場の代表的な血統が、ファミリーナンバー 9-g のエモーティヴ(Emotive)から派生する『感情一族』である。"Emotive"は英語で「感情の」という意味の形容詞である。


 エモーティヴは1969年に産まれた。父はブラジルで種牡馬となったフランス産馬タング、母は1958年にサンパウロ地区のオークスにあたるヂアナを、翌年にはリオ・デ・ジャネイロ地区のオークスにあたるヂアナを優勝したエモシオン。近親には、1977年にサンパウロ牝馬3冠を達成したエメラルドヒル(Emerald Hill)がいるという良血である。繁殖牝馬として10頭の産駒を輩出し、競走馬としてデビューした8頭いずれもが勝ち星をあげた。


 そのうちの1頭が、1979年にイギリス産馬コンブリオとの間に産まれた2番目の仔エモシオネス(Emociones)である。"Emociones"はスペイン語で「感情」を意味する名詞の複数形である。通算成績は13戦8勝、1983年には1000m直線のGⅠシウダー・デ・ブエノスアイレスを制し、最優秀スプリンターに選出された。引退後はブラジルで繁殖牝馬となったが、重賞を勝つなどの活躍馬は輩出できなかった。


 エモーティヴから派生する『感情一族』の繁栄に大いに貢献したのは、エモーティヴ3番目の仔イステリア(Histeria)である。



イステリアの産駒


 エモシオネスの全妹にあたるイステリアは、1982年に産まれた。馬名の意味はスペイン語で「ヒステリー」である。現役時代はパレルモ競馬場のダート戦を1勝した。繁殖牝馬としては5頭の仔を産み、5頭ともが勝利をあげた。


 1989年7月25日にイステリア3番目の仔として誕生したのが、父にエルアセソールを持つラテンシア(Latencia)である。この牝馬は32戦6勝という成績を残し、1600mのGⅡを3勝、同じく1600mのGⅢを1勝と活躍した。


 ラテンシアが繁殖入りし、2001年8月22日に産んだ4番目の仔がアルゼンチン競馬を代表する名馬である。スルージンフィズとの間に誕生したレイテンシー(Latency)である。レイテンシーは、2004年にアルゼンチン3冠競走の2戦目GⅠジョッキークルブを、2005年にアルゼンチン競馬の祭典GⅠエストレージャス・クラシックと、ダートのマイルGⅠパレルモを、2006年にGⅠミゲル・アルフレード・マルティネス・デ・オスと、競馬の南米選手権GⅠラティーノアメリカーノを、2007年にGⅠヘネラル・サン・マルティンと、南米最大のGⅠ競走カルロス・ペジェグリーニを、そして、2009年にGⅠデ・オノールと、28戦11勝、GⅠ8勝と大活躍した。2005年には最優秀古馬牡馬と最優秀マイラーに、2007年には年度代表馬と最優秀長距離馬に選出された。引退後はラス・ドス・マノス牧場で種牡馬入りした。


 ラテンシアに加えて、イステリアの産駒でもう1頭注目しなければならない馬がいる。グッドブロークとの間に産まれたイステリアの初仔クロナクシア(Cronaxia)である。


■ レイテンシーが勝ったGⅠカルロス・ペジェグリーニ



クロナクシアの産駒


 クロナクシアは1987年8月12日に産まれた。5戦2勝で競走馬を引退すると、フィルマメント牧場で繁殖牝馬となった。12頭を産み、出走した8頭すべてが勝ち上がった。


 1999年10月1日、6番目の仔エンペニョーサフィッツ(Empeñosa Fitz)がフィッツカラルドとの間に産まれた。エンペニョーサフィッツは、2002年に4戦4勝と無敗でアルゼンチンのエリザベス女王杯にあたるGⅠコパ・デ・プラタを優勝した。引退後は母と同じくフィルマメント牧場で繁殖入りした、8頭を産み、孫娘にあたるエンペニョーサリモウト(Empeñosa Rimout)がGⅢ競走を勝利した。感情一族の枝はあらゆる方向に伸びている。


 パレードマーシャルを父に持つエモーションパレード(Emotion Parade)は、クロナクシア10番目の仔として2003年10月29日に産まれた。2006年にアルゼンチの1000ギニーにあたるGⅠポージャ・デ・ポトランカス、オークスにあたるセレクシオン、芝2000mの3歳牝馬GⅠエンリケ・アセバルを優勝した。アルゼンチンに牝馬3冠はないが、牝馬3冠に相当するレースを制覇したのである。もちろん、その年の年度代表牝馬と最優秀3歳牝馬に選出された。引退後はアメリカで繁殖入りした。4頭を産んだが活躍馬は出せず、2018年にアルゼンチンに帰国し、現在はサンタ・イネス牧場で繋養されている。


 エモーションパレードはアメリカに渡ったため、母国アルゼンチンではその血が珍しい。しかし、フィルマメント牧場は自牧場が生産した名牝の血をぜひとも残したいと考えた。白羽の矢が立てられたのが、アンアヴェイラブル(Unavailable)である。


■ エモーションパレードが勝ったGⅠエンリケ・アセバル



アンアヴェイラブルの産駒


 エモーションパレードの初仔アンアヴェイラブル(Unavailable)は、2009年にケンタッキーで産まれた。父はディストーテッドヒューマー。2014年にフィルマメント牧場に輸入されると、これまで5頭を出産し、3頭が競走馬となり、1頭が勝ち星をあげた。


 その1頭が、初仔エモーションオーペン(Emotion Orpen)である。2015年9月5日にオーペンとの間に産まれたこの牡馬は、2018年のGⅠプロビンシア・デ・ブエノスアイレス、2020年のGⅠダルド・ロチャと、GⅠ2勝を含む重賞6勝と活躍している。2021年5月現在も現役の競走馬であり、22戦7勝という成績をあげている。


■ エモーションオーペンが勝ったGⅠダルド・ロチャ




日本と感情一族


 始祖エモーティヴから派生したGⅠ馬の系譜をまとめると、以下のようになる。


・エモーティヴ ⇒ エモシオネス

・エモーティヴ ⇒ イステリア ⇒ ラテンシア ⇒ レイテンシー

・エモーティヴ ⇒ イステリア ⇒ クロナクシア ⇒ エンペニョーサフィッツエモーションパレード

・エモーティヴ ⇒ イステリア ⇒ クロナクシア ⇒ エモーションパレード ⇒ アンアヴェイラブル ⇒ エモーションオーペン


 感情一族に属する馬は、残念ながら日本に1頭も入ってきていない。しかし、スターパレード、パドックシアトル、フーイズフー、チックニステルなど、フィルマメント牧場生産の牝馬は輸入されているため、今後導入される可能性は充分にある。


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木下 昂也(Koya Kinoshita)

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