• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

日本一族、あるいはA・RA・SHI一族


ハットニンジャ(Hat Ninja) 写真:Haras Chenaut https://www.chenaut.com/chenaut/ejemplares-home?id_ejemplar=320077&tipo_vista=

日本一族


 ○○一族と総称される馬がいる。たとえば、薔薇一族。ローザネイ(Rosa Nay)から派生する競走馬の一族で、ローズバド、ローズキングダム、ローゼンクロイツといった活躍馬が産まれた。スカーレット一族も有名である。スカーレットインクから派生する競走馬の一族で、ヴァーミリアン、ダイワメジャー、ダイワスカーレットなどの名馬が属する。


 これらいわゆる走る血統は、アルゼンチンにも存在する。その代表例が、ニポーナ(Nipona)から派生する競走馬の一族である。"Nipona" とは「日本の」を意味するスペイン語の形容詞 "Nipón" の女性形であり、馬名の意味は「日本人女性」となる。したがって、この一族を『日本一族』と名づけることができる。



ニポーナの産駒


 ニポーナは1982年9月20日にアルゼンチンで産まれた。通算成績は12戦8勝で、重賞勝ちはない。繁殖牝馬として13頭の産駒を残し、うち8頭が勝ち上がった。


 ニポーナ最初の産駒は、1989年9月11日にジャストインケースとの間に産まれたザジャップ(The Jap)である。あまり良い気分のする馬名ではないが、耳を塞いでおこう。ザジャップの通算成績は27戦4勝。重賞勝ちはないが、1994年のGⅠコンパラシオンで2着に入るなど活躍し、現役引退後は種牡馬となった。

 

 2番目の産駒は1990年9月20日に誕生した。父にエッグトスを持つニッポントス(Nippon Toss)である。こちらも首をひねりたくなる馬名であるが、気にしないでおく。ニッポントスのキャリアは6戦3勝と少ないが、1993年にGⅡを2勝し、アルゼンチンの2000ギニーにあたるGⅠポージャ・デ・ポトランカスでは2着になった。この馬も現役引退後に種牡馬入りした。


ニポーナの産駒でもっとも活躍したのが、1991年10月8日にサンスヴェとの間に産まれた3番目の仔アキーロ(Akiro)である。通算成績は34戦12勝。1997年のGⅠコンパラシオンを含む重賞5勝をあげた。引退後は種牡馬入りし、ニポーナの最初の3頭すべてが種牡馬となった。


 ニポーナの産駒で種牡馬になった馬はもう1頭いる。10番目の仔として2001年9月17日に産まれた、ロアー産駒のフォーティーニップ(Forty Nip)である。10戦1勝と競走馬としては活躍できなかったが、良血が評価されてドン・ナルシーソ牧場で種牡馬となった。


 2002年9月12日、バーンスタインとの間に11頭目の産駒となるストーミーニルヴァーナ(Stormy Nirvana)が産まれた。この牝馬は6戦4勝、2着2回と連対率100%を誇り、GⅢとGⅡを1勝ずつした。


 しかし、ニポーナから派生する日本一族』に繁栄をもたらしたのは、上記のいずれの馬でもない。ニポーナ8番目の産駒サウスニーナ(South Nina)である



サウスニーナの産駒


 サウスニーナは、1997年9月27日にサザンヘイローの仔として産まれた。現役時代は2戦0勝と未勝利に終わった。繁殖牝馬としては13頭の産駒を残し、うち6頭が勝ち上がった。6頭のうち、言及すべき馬が3頭いる。


 1頭目が、サウスニーナの初産駒として2002年8月31日に産まれたストーミーニーニャ(Stormy Niña)である。父はバーンスタイン。ストーミーニーニャは13戦3勝の成績をあげ、2005年には2歳牝馬GⅠエリセオ・ラミレスを優勝した。


 2頭目が、2003年8月21日に産まれた2番目の産駒で、ストーミーニーニャの全妹にあたるストーミーニンブル(Stormy Nimble)である。通算成績は10戦3勝で、2006年にエリセオ・ラミレスと1000ギニーという2つの2歳牝馬GⅠを優勝した。


 3頭目、2008年8月22日に産まれた7番目の産駒ストーミーニングーナ(Stormy Ninguna)も、父にバーンスタインを持つ。通算成績は18戦3勝、うち1勝が2011年のGⅠ1000ギニーである。


 サウスニーナは3頭のGⅠ馬の母となった。3頭ものGⅠ馬を輩出した繁殖牝馬は、世界的に見ても例が少ない。いずれも馬名に "Stormy" 、「嵐の」という英語の形容詞が含まれる。したがって、『嵐一族』と名づけてもいいだろう。加えて、3頭とも牝馬だったことが、日本一族、あるいは嵐一族の繁栄をさらに支えることになる。


■ ストーミーニンブルが勝った2006年のGⅠ1000ギニー



ストーミーニンブルの産駒


 サウスニーナ2番目の産駒ストーミーニンブルは、繁殖牝馬としてこれまで9頭の産駒を残し、うち4頭が勝ち上がった。


 2013年10月16日に産まれた4番目の産駒ハットニンジャ(Hat Ninja)は、その名から予想できるように、父にハットトリックを持つ。通算成績は9戦4勝。GⅡ1勝、GⅢ2勝と、中長距離を中心に活躍した。現在は種牡馬となっており、南米サンデーサイレンス系の継承者としての役割を担っている。


 5番目の産駒ジョイニデーラ(Joy Nidera)は、2015年10月5日に産まれ、父にフォーティファイを持つ。アルゼンチン時代はGⅡを1勝し、2018年にはアルゼンチンのオークスにあたるGⅠセレクシオン、3歳牝馬GⅠエンリケ・アセバルで共に2着に入った。後にアメリカに移籍し、5戦して1勝をあげた。


 2016年9月30日に産まれた6番目の産駒、ジョイニデーラの全妹ナスティア(Nastia)は、フランスのアンドレ・ファーブル調教師の奥様の所有だった。2019年のGⅠセレクシオンを優勝するなど、7戦3勝の成績をあげた。


 ニポーナ、サウスニーナ、ストーミーニンブルと、このファミリーナンバー 1-e の牝系がいかに優秀であるか、すでにお分かりいただけただろう。だが、日本一族にはもう1頭忘れてはいけない馬がいる。サウスニーナ4番目の産駒で、ダルハートとの間に産まれたダレニニェーラ(Dale Niñera)である


■ ナスティアが勝った2019年のGⅠセレクシオン



ダレニニェーラの産駒


 ダレニニェーラは2005年7月16日に産まれた。現役時代は8戦3勝。繁殖牝馬としては9頭を産み、うち3頭が勝ち上がった。


 3頭のうち1頭が、2015年7月10日に産まれた5番目の産駒ジョイニキータ(Joy Nikita)である。父はこの一族ではお馴染みのフォーティファイ。2018年にGⅠ1000ギニーを含む重賞2勝をあげ、その年のアルゼンチン最優秀2歳牝馬に選出された。こうして見ると、日本一族の活躍馬には牝馬が目立つ。


■ ジョイニキータが勝った2018年のGⅠ1000ギニー



日本一族は日本へ


 日本一族が日本ではなく、地球の裏側アルゼンチンで繁栄したとは面白い。さらに面白いのが、日本一族が続々と日本に上陸していることである。ジョイニデーラ、ナスティア、ジョイニキータが繁殖牝馬として日本に導入された。いずれも父はフォーティファイである。2021年、ナスティアはキズナとの、ジョイニキータはガンランナーとの産駒が誕生予定である。


 また、川崎競馬の高月賢一調教師の管理馬にオオサンバシという馬がいる。2018年10月1日にアルゼンチンのバカシオン牧場で産まれたこの牝馬は、もともとサベールコンプレンデール(Saber Comprender)という名でアルゼンチン・スタッドブックに登録され、日本に輸入されてオオサンバシと改名した。父はフォーティファイ、母はストーミーニッピー(Stormy Nippy)。ストーミー○○という名前ですでにお分かりかもしれないが、ストーミーニッピーはニポーナの13番目かつ最後の産駒である。オオサンバシも日本に上陸した日本一族に属する。


 日本一族、あるいは嵐一族のホームはアルゼンチンである。短距離でも長距離でも、芝でもダートでも、いかなる条件だろうと活躍馬を輩出した。日本一族にとってはアウェイとなる日本でも、その血の活力をもってすれば、嵐を巻き起こすに違いない。


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木下 昂也(Koya Kinoshita)

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