• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

日本競馬に託された『歴史一族』の繁栄


ハイハッピー(Hi Happy) 写真:El Turf https://elturf.com/ejemplares-home?id_ejemplar=303098&tipo_vista=

 前々回の『日本一族』、前回の『フィリピン一族』と比べると、今回紹介する一族はフレッシュな血統で、もしかしたら一族と呼ぶにはまだ早いかもしれない。しかし、間違いなくこれから育まれていく血統であり、日本とも関わりが深いので紹介したい。それが、イストリア(Historia)を始祖とする『歴史一族』である。"Historia" はスペイン語で「歴史」を意味する名詞である。


 イストリアは1999年10月18日にアルゼンチンのカランパンゲ牧場で産まれた。父フレンチデピュティ、母父ミスワキという血統。4代母にはファンフルルーシュ(Fanfreluche)がおり、牝系には活躍馬がずらりと並ぶ良血である。競走馬としてはデビューせず、ラ・プロビデンシア牧場で繁殖牝馬となった。母として12頭の産駒を残し、競走馬となった7頭すべてが勝ち上がった。


 2008年10月30日にピュアプライズとの間に産まれたイストリア5番目の産駒ヒンツ(Hinz)は、2歳時にチリへ輸出され、チリで競走生活を送った。9歳まで走ったタフネスで、通算成績は83戦14勝。2011年にはチレ競馬場で行なわれたGⅠ2000ギニーを優勝した。引退後はチリのブカレスト牧場で種牡馬入りした。


■ ヒンツが勝った2011年の2000ギニー



 2012年7月22日、同じくピュアプライズとの間に産まれたイストリア8番目の産駒は、アルゼンチン競馬史に残る名馬となった。ハイハッピー(Hi Happy)である。2015年、ハイハッピーはGⅠ2000ギニー、GⅠジョッキークルブ、アルゼンチンのダービーにあたるGⅠナシオナル、南米最大のGⅠ競走カルロス・ペジェグリーニを6戦6勝と無敗で制し、その年の年度代表馬、最優秀3歳牡馬、最優秀長距離馬に選出された。翌年からアメリカに移籍し、2018年のGⅠマンノウォーSを優勝した。通算成績は19戦8勝。引退後はアルゼンチンに帰国し、2019年からバカシオン牧場で種牡馬となった。


■ ハイハッピーが勝った2018年のGⅠマンノウォーS



 ハイハッピーとは全妹の年仔であるイスパニダー(Hispanidad)は、2016年にアルゼンチンの1000ギニーにあたるGⅠポージャ・デ・ポトランカスに出走し、後にBCディスタフを制する名牝ブループライズ(Blue Prize)をクビ差しりぞけて優勝した。通算成績は10戦2勝だが、アルゼンチンのオークスにあたるGⅠセレクシオン、牝馬限定GⅠクリアドーレスで2着に入るなど活躍した。


■ イスパニダーが勝った2016年のGⅠポージャ・デ・ポトランカス



 日本一族のサウスニーナ(South Nina)、フィリピン一族のフィリピーナ(Filipina)と同じく、歴史一族のイストリアも3頭のGⅠ馬の母となった。だが、2頭と異なるのは、イストリアはアルゼンチン、チリ、アメリカと3ヶ国のGⅠウィナーになったことである。3頭のGⅠ馬を輩出した繁殖牝馬ですら、世界を見ても数えるほどしかいないのに、産駒が3ヶ国のGⅠ競走を優勝するとは驚異的である。この一族の血がいかに期待できるかを示している。


 イストリアは2020年12月1日に亡くなった。歴史一族の繁栄は次代に委ねられた。その筆頭は、牝馬でGⅠを勝ったイスパニダーである。では、イスパニダーは現在どこで何をしているのか?


 2018年1月26日、イスパニダーはアルゼンチンから日本に輸出された。ノーザンファームで繋養され、2019年にディープインパクトとの間に初仔が誕生した。今年デビューを迎えるこの牡馬はコリエンテスと名付けられ、シルク・レーシングの所有、堀宣行調教師の管理馬としてデビューに備えている。2020年はハーツクライとの種付けが不受胎となったが、2021年はドゥラメンテとの仔が誕生予定である。歴史一族繁栄の鍵を握っているのは、日本の生産者なのである。


 イストリアの産駒で牝馬は他にも、2004年に産まれた2番目の産駒エヘモニーア(Hegemonia)、2009年に産まれた6番目の産駒イル(Hilu)、2011年に産まれた7番目の産駒イポダミア(Hipodamia)がいる。エヘモニーアは8頭の仔を産み、うち4頭が勝ち上がった。イスパニダーに加え、これらの中からも、歴史一族の「イストリア(Historia)」を築いていく馬が現れるかもしれない。


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木下 昂也(Koya Kinoshita)

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