
木下 昂也(Koya Kinoshita)
最強の日本人のおなまえ(名字編)
アメリカのGⅠを勝ったヨシダ(Yoshida)や、ドイツのGⅠを勝ったイトウ(Ito)など、まるで日本人の名字のような名前をつけられた馬がいる。最近では、タイガータナカ(Tiger Tanaka)やコンドウイサミ(Kondo Isami)という名前の馬も登場した。
そこで疑問に思ったのは、日本人の名前をつけられた馬はどのくらいおり、その中でもっとも活躍したのはどの馬なのかということである。
競馬界で最強の名字馬はいったい誰だ?
しかし、日本人の名字は数えきれないほどバリエーションが豊富である。鈴木さんもいれば大谷さんもいるし、一番合戦さんもいる。そのすべてを調べることはできないので、今回は『名字由来net』に掲載されている全国名字ランキングの TOP50 に絞り、それを "Thoroughbred Horse Pedigree Query" で検索することにした。
名字ランキング & 頭数
1位 佐藤:4頭(Satoが3頭、Satouが1頭)
2位 鈴木:6頭
3位 高橋:2頭
4位 田中:11頭
5位 伊藤:11頭(Itoが10頭 Itouが1頭)
6位 渡辺:2頭
7位 山本:1頭
8位 中村:8頭
9位 小林:3頭
10位 加藤:8頭(Katoが8頭、katouは0頭)
11位 吉田:4頭
12位 山田:1頭
13位 佐々木:4頭
14位 山口:4頭
15位 松本:2頭
16位 井上:0頭
17位 木村:6頭
18位 林:2頭
19位 斎藤:1頭(Saitoが1頭、Saitouは0頭。なお、ジャンポケ産駒ではない)
20位 清水:3頭
21位 山崎:6頭(Yamazakiが4頭、Yamasakiが2頭)
22位 森:5頭
23位 池田:0頭
24位 橋本:3頭
25位 阿部:3頭
26位 石川:2頭
27位 山下:1頭
28位 中島:0頭(NakajimaもNakashimaもいない)
29位 石井:2頭(Ishiが2頭、Ishiiは0頭)
30位 小川:0頭
31位 前田:3頭
32位 岡田:1頭
33位 長谷川:0頭
34位 藤田:2頭
35位 後藤:1頭(Gotoが1頭、Gotouは0頭)
36位 近藤:0頭(KondoもKondouもいない)
37位 村上:6頭
38位 遠藤:2頭(Endoが2頭、Endouは0頭)
39位 青木:1頭
40位 坂本:3頭
41位 斉藤:斎藤に同じ
42位 福田:1頭
43位 太田:4頭(Otaが4頭、Ootaは0頭)
44位 西村:0頭
45位 藤井:10頭(Fujiが10頭、Fujiiは0頭)
46位 金子:1頭
47位 岡本:0頭
48位 藤原:1頭
49位 三浦:12頭
50位 中野:4頭
人間界でもっとも多い名字は「佐藤」だが、サラブレッド界でもっとも多い名字は「三浦」の12頭である。「田中」と「伊藤」が11頭で並び、4位には10頭で「藤井」がランクインする。しかし、藤井の場合は少々問題がある。アルファベットにすると "Fuji" となり、富士山の富士、マウント・フジのフジと同じ表記になってしまう。10頭はいずれも藤井ではなく、富士を意味するだろう。
ある程度予想できたかもしれないが、これら名字馬の中でもっとも活躍した馬は、ハーツクライ産駒のヨシダ(Yoshida)である。2014年に日本で産まれ、アメリカで競走生活を送ったこの牡馬は、2018年にGⅠオールド・フォレスター・ターフ・クラシックSとGⅠウッドワードSを優勝した。通算成績は18戦5勝、獲得賞金額は250万ドル以上にもなる。現在はアメリカのウィンスターFで種牡馬として供用されている。吉田は競馬界でも最強であり、生産界でも最強であり、霊長類としても最強なのである。
ヨシダに負けず劣らずの活躍を見せたのが、2011年にドイツで産まれたイトウ(Ito)である。2014年4月に競走馬としてデビューすると、4歳時にミュンヘン競馬場で行なわれたGⅠバイエルンを鞍上フィリップ・ミナリクで優勝した。その後遠征したジャパンCでは最下位に敗れたものの、翌年にはGⅡ競走を優勝した。
もう1頭、名字馬として突出した成績をおさめたのが、トルコのカネコ(Kaneko)である。2001年にトルコで産まれたこのピヴォタル産駒は、トルコの2000ギニーにあたるGⅠErkek Tay Deneme(読めん!)を優勝し、トルコのダービーにあたるGⅠガジ・ダービーでも2着に入った。同じ年の10月にはGⅠイスタンブールも優勝するなど、通算成績40戦13勝のうち6勝が重賞競走である。2005年にはドバイに遠征し、GⅢマクトゥーム・チャレンジR1で2着、R2で3着と奮闘した。
■ トルコの2000ギニーを勝利したカネコ(Kaneko)
その他に重賞を勝利した名字馬には、1907年にGⅢアグアードを優勝したフランスのハヤシ(Hayashi)、1987年のGⅢアルトゥーロ・A・ブルリッチを優勝したアルゼンチンのモリ(Mori)がいる。また、フランス産まれのゴトウ(Goto)は、2002年に行なわれたスイス・ダービーを鞍上オリビエ・ペリエで優勝した。アメリカのナカノ(Nakano)は重賞勝ちこそないが、2012年のGⅠプリンセス・ルーニーHで3着に入った。
競走馬としては活躍できなかったが、興味深い名字馬を以下に紹介する。
血統的に興味深いのは、1951年にイタリアで産まれたタナカ(Tanaka)である。父母と母母にトファネッラ(Tofanella)という馬を持つ。つまり、異父姉弟の交配で誕生したということである。

1948年にアメリカで産まれたカトウ(Kato)も強烈な近親交配によって誕生した牝馬である。父のブルドッグ(Bull Dog)と母母母マルグリットドヴァロワ(Marguerite de Valois)は全姉弟関係にあたる。
最後に、アメリカで産まれたサトウ(Sato)について触れなければならない。サトウは父プチリンギ(Puchilingui)、母スプリングタイムガール(Springtime Girl)との間に1996年に産まれた牡馬である。競走馬としては1戦0勝で引退したのだが、注目すべきはそのルックスである。父プチリンギは鹿毛と白毛のぶち模様(W5)であり、その仔サトウもゴールド・パロミノ&ホワイト・サビオ、つまり、月毛と白毛のぶち模様という珍しい毛色の持ち主なのである。世界でこの馬しかいない毛色だそうだ。もっとも強い名字馬はヨシダだが、もっとも美しい名字馬はサトウで間違いないだろう。

写真:Blazing Colours Farm http://www.blazingcoloursfarm.com/Sato.html
内容が面白かった・役に立ったという方は、ハートボタンのクリックや、SNSのフォロー、サポートなどをよろしくお願いします。活動のモチベーションにつながります。
----------
木下 昂也(Koya Kinoshita)
【Twitter】 @koyakinoshita24
【Instagram】 @kinoshita_koya1024
【Mail】 kinoshita.koya1024@gmail.com