
木下 昂也(Koya Kinoshita)
最強の都道府県馬は誰だ?
世の中には「ジャパン」や「オーストラリア」といった国の名前をつけられた馬や、「ケープタウン」や「アブダビ」のように都市の名前をつけられた馬が存在する。筆者は以前、『ドラゴンボール』の登場人物の馬名を持つ馬や、『ポケモン』のキャラクターの馬名を持つ馬を調べたが、今回は次の疑問を解決しようと考えた。
都道府県の名前がつけられた馬で一番強いのは誰だろうか?
調査手段としては、競馬ファンにはお馴染みの "Thoroughbred Horse Pedigree Query" を使った。2021年7月21日時点でこのサイトに登録されている馬を「都道府県馬」と認定した。漏れや誤表記はご容赦願いたい。
北海道・東北
・北海道:11頭 "Hokaido" も4頭(※札幌:18頭 "Saporo" も2頭)
・青森:1頭
・岩手:0頭
・秋田:10頭
・宮城:2頭(※仙台:6頭)
・山形:4頭
・福島:3頭
関東
・栃木:1頭
・群馬:1頭
・茨城:4頭 "Ibaragi" は0頭
・埼玉:5頭
・千葉:5頭(※成田:12頭)
・東京:16頭 "Tokio" も11頭
・神奈川:0頭(※横浜:21頭)
中部
・新潟:3頭 "Nigata" も1頭
・富山:4頭
・石川:2頭(※金沢:4頭)
・福井:1頭
・長野:11頭
・山梨:0頭
・静岡:0頭
・愛知:2頭(※名古屋:18頭)
・岐阜:1頭
近畿
・三重:0頭
・滋賀:0頭
・京都:18頭 "Kioto" も4頭
・大阪:28頭
・奈良:14頭
・和歌山:5頭
・兵庫:0頭(※神戸:7頭)
中国
・岡山:3頭
・広島:16頭
・鳥取:1頭
・島根:0頭
・山口:4頭
四国
・香川:1頭
・徳島:2頭
・高知:5頭
・愛媛:0頭
九州・沖縄
・福岡:2頭(※博多:4頭)
・佐賀:41頭
・長崎:11頭
・大分:3頭
・熊本:2頭
・宮崎:2頭 "Miyasaki" も1頭
・鹿児島:3頭(※薩摩:16頭)
・沖縄:16頭
日本全国でもっとも頭数が多いのが佐賀である。しかし、"Saga" には歴史物語を意味する "Saga" や、北欧神話の "Saga" などの意味があるため、必ずしも、というより、ほとんどの場合で佐賀県を意味しないだろう。したがって、都道府県馬のトップは大阪の28頭とみなしていい。
北海道、東京、京都、大阪、奈良、広島、沖縄といった、ビジネスや観光などで世界的に知られている都道府県は馬名に用いられることが多い。
しかし、都道府県名よりも都市名のほうが多い場合もある。宮城の2頭に対して仙台の6頭、千葉の5頭に対して成田の12頭、神奈川の0頭に対して横浜の21頭、愛知の2頭に対して名古屋の18頭、兵庫の0頭に対して神戸の7頭である(※神戸の場合はコービー・ブライアントの "Kobe" の可能性もあるが……)。札幌の18頭と長野の11頭にも注目しておきたい。どちらもオリンピックの開催地である。
さて、冒頭の疑問に戻ろう。数多く存在する都道府県馬の中で、もっとも活躍したのはいったいどの馬だろうか?
紛うかたなき最強の都道府県馬は、チリで産まれたヒロシマ(Hiroshima)である。1953年に父ウェルシュハニー、母ヘタイラとの間に産まれたこの牝馬は、1956年にGⅠタンテオ・デ・ポトランカスとGⅠポージャ・デ・ポトランカスを優勝した。さらに、GⅡコパ・ジャクソンとGⅢムニシパル・デ・ビーニャ・デル・マルも勝利し、1957年のエル・デルビー(チリ・ダービー)では牡馬を相手に3着に入った。
※レースの名称や格付けは現在のものにあてはめた。
■ コパ・ジャクソンを優勝した広島、鞍上はエンリケ・アジャーラ騎手

http://www.memoriachilena.gob.cl/archivos2/pdfs/MC0008047.pdf
都道府県馬のGⅠ馬はもう1頭いる。またしてもチリ産馬である。2002年8月17日に父メモ、母カンタメアルオイードとの間に産まれた宮崎が、2005年にGⅠマウリシオ・セラーノ・パルマを優勝した。通算成績は9戦4勝で、その年のチリ競馬で8番目に賞金を稼いだ馬となった。しかし、アルファベット表記は "Miyazaki" ではなく "Miyasaki" と濁らないため、厳密に言えば都道府県馬ではない。
その他にも、GⅢを勝利してドイツの最優秀2歳牝馬に選出されたドイツのアキタ(Akita)、GⅠスピナウェイSで2着に入ったアメリカのアキタ(Akita)、2014年のGⅠエンリケ・アジューロ・パルドで2着になったペルーのコウチ(Kouchi)、GⅡを2勝して最優秀2歳牝馬に選出されたベネズエラのサガ(Saga)といった活躍馬がいる。しかし、GⅠを勝った都道府県馬はヒロシマとミヤサキの2頭しかいない。したがって、チリのヒロシマを『最強の都道府県馬』とみなして問題ないだろう。
競走馬としては活躍できなかったが、興味深い血統を持つ都道府県馬がいる。たとえば、アイルランドのアキタ(AKita)だ。父母と母父が姉弟という近親血統の持ち主である。フランスのキョウト(Kyoto)は母がオキナワ(Okinawa)であり、トゥールビヨンの3×2、クサールの4×3×4という濃い血を持つ。トルコのキョウト(Kyoto)は、母がサヨナラ(Sayonara)で、このサヨナラがクードロアの2×2を持つ。
都道府県馬には父に日本の種牡馬を持つ馬が多い。オーストラリアのワカヤマ(Wakayama)はタヤスツヨシの、スウェーデンのワカヤマ(Wakayama)はエイシンダンカークの産駒である。スウェーデンにはヤマグチ(Yamaguchi)という馬もおり、こちらもエイシンダンカークの仔である。インドのカガワ(Kagawa)はハクチカラを、南アフリカのカゴシマ(Kagoshima)はアドマイヤメインを父に持つ。日本的な名前をつけられた馬には、日本と何らかの関連を持つ馬が多い。
最後に、アルゼンチン産まれのホッカイドウ(Hokkaido)という馬を紹介したい。ホッカイドウの母母はオカヤマ(Okayama)である、そのオカヤマの母をオオサカ(Osaka)という。これだけではない。ホッカイドウの5代母にオリンペ(Olympe)がいる。このオリンペの仔がアルゼンチンのオキナワ(Okinawa)である。1頭の牝馬を介して、北海道と沖縄がつながるとは面白い。
■ 北海道の血統

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