• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

最強世代で最強の種牡馬は誰だ?

 最強世代と呼ばれた1998年産まれのサラブレッドたち。世代を形成した馬たちは、今やほとんどが亡くなったか、老齢となり役目を終えた。いまだに現役の競走馬として走っている産駒、これからデビューする産駒はいるものの、世代に区切りがついたと言っていいだろう。


 最強世代とは彼らが競走馬時代につけられた呼称だが、種牡馬としても最強世代だった。アグネスタキオンがダイワスカーレットという名牝を産めば、クロフネはソダシという歴史的な白毛馬を産み、かと思えば、アグネスゴールドがブラジルでジャネールモネイという無敗の3冠牝馬を産んだ。ジャングルポケット、マンハッタンカフェもGⅠ馬の父になった。


 区切りがついた今こそ、この疑問に答えるときがきた。


 最強世代で最強の遺伝子の持ち主は誰だったのか?


 今回は、アグネスタキオン、クロフネ、ジャングルポケット、マンハッタンカフェ、アグネスゴールドの種牡馬成績を集計し、「種牡馬としてもっとも活躍したのは誰か?」を調べる。アグネスタキオン、クロフネ、ジャングルポケット、マンハッタンカフェは netkeiba の、アグネスゴールドはブラジル・スタッドブックの数値を参照する。また、前者4頭は地方・海外・障害を除くJRAのみの成績、後者は本拠地であるブラジルのみの成績とし、2021年4月14日を最終閲覧日とする。※○は順位。



アグネスタキオン

③ 勝利数:967勝

③ 勝利馬数:457頭

② GⅠ勝利数:10勝

③ GⅠ馬:6頭



クロフネ

① 勝利数:1,445勝

① 勝利馬数:628頭

③ GⅠ勝利数:9勝

② GⅠ馬:7頭



ジャングルポケット

④ 勝利数:695勝

④ 勝利馬数:310頭

④ GⅠ勝利数:7勝

④ GⅠ馬:6頭



マンハッタンカフェ

② 勝利数:1,154勝

② 勝利馬数:480頭

⑤ GⅠ勝利数:5勝

⑤ GⅠ馬:5頭



アグネスゴールド

⑤ 勝利数:549勝

⑤ 勝利馬数:190頭

① GⅠ勝利数:15勝

① GⅠ馬:11頭



 勝利数の順では、クロフネ ⇒ マンハッタンカフェ ⇒ アグネスタキオン ⇒ ジャングルポケット ⇒ アグネスゴールドの順になる。勝利馬数でも同じく、クロフネ ⇒ マンハッタンカフェ ⇒ アグネスタキオン ⇒ ジャングルポケット ⇒ アグネスゴールドの順である。しかし、GⅠ勝利数に着目すると、アグネスゴールド ⇒ アグネスタキオン ⇒ クロフネ ⇒ ジャングルポケット ⇒ マンハッタンカフェとなる。全体的に見ればクロフネとアグネスタキオンが優秀である、というのは大方の予想どおりだろう。


 しかし、皆様はすでにお気づきだろうが、数字だけで判断するのはあまりにも不公平である。たとえば、アグネスタキオンが亡くなったのは2009年。クロフネが亡くなったのは2021年。その差は12年もある。12年もあれば、クロフネ産駒のほうが圧倒的に多くなるし、産駒が多ければ多いほど勝利数も増えていく。むしろ、12年の空白があるにもかかわらず、アグネスタキオンとクロフネの勝利数の差が500勝しか変わらないのは、アグネスタキオンがいかに優秀な種牡馬だったかを示している。


 産駒数ということであれば、アグネスゴールドは不利な立場に置かれる。というのも、日本では年間約7,000頭のサラブレッドが産まれるが、ブラジルでは約2,000頭である。全体の分母で3倍以上の差が開いてしまう。


 また、勝利の価値というのも疑問視されるだろう。つまり、100勝(GⅠ0勝)と50勝(GⅠ1勝)はどちらが優れているのかという問題である。たくさん勝ったほうが偉いと思うかもしれないし、大きな花火を打ち上げたほうが立派だと思う人もいるだろう。


 様々な理由から、単純な数字比べで勝敗を決するのはナンセンスである。したがって、今回の勝負は割合で決着をつけなければならない。そこで、筆者は以下の4項目を調査した。


■ 勝率(勝利数÷総出走回数)

■ GⅠ率(GⅠ勝利数÷勝利数)

■ 勝ち上がり率(勝利馬数÷出走頭数)

■ GⅠ馬率(GⅠ馬数÷勝利馬数)


 さっそく計算していきたいのだが、ここで1つ問題が生じた。ブラジル・スタッドブックは種牡馬別の総出走回数を出していない。アグネスゴールド産駒が通算何回出走したのかが記載されていないのである。そこで筆者が取った手段は以下である。


 個々の馬の成績であればスタッドブックに載っている。ならば、全アグネスゴールド産駒の競走成績を調べて足し算すればいい!(ザ・原始的)



アグネスタキオン

② 勝率:9.64%(967勝÷10,034回)

② GⅠ率:1.03%(10勝÷967勝)

② 勝ち上がり率:46.97%(457頭÷973頭)

③ GⅠ馬率:1.31%(6頭÷457頭)



クロフネ

④ 勝率:8.45%(1,445勝÷17,104回)

④ GⅠ率:0.62%(9勝÷1,445勝)

③ 勝ち上がり率:42.52%(628頭÷1,477頭)

④ GⅠ馬率:1.11%(7頭÷628頭)



ジャングルポケット

⑤ 勝率:6.50%(695勝÷10,698頭)

③ GⅠ率:1.01%(7勝÷695勝)

⑤ 勝ち上がり率:28.68%(310頭÷1,081頭)

② GⅠ馬率:1.94%(6頭÷310頭)



マンハッタンカフェ

③ 勝率:8.74%(1154勝÷13,198回)

⑤ GⅠ率:0.43%(5勝÷1,154勝)

④ 勝ち上がり率:38.31%(480頭÷1,253頭)

⑤ GⅠ馬率:1.04%(5頭÷480頭)



アグネスゴールド

① 勝率:16.84%(549勝÷3,261回)

① GⅠ率:2.73%(15勝÷549勝)

① 勝ち上がり率:75.10%(190頭÷253頭)

① GⅠ馬率:5.79%(11頭÷190頭)



 各項目を1位5点、2位4点、3位3点、4位2点、5位1点として集計してみよう。全項目で1位となったアグネスゴールドが20点を獲得し、最強世代最強の遺伝子の持ち主選手権を優勝した。2位は15点でアグネスタキオン。他4頭と比べて種牡馬としての実働期間が短いにもかかわらずこの好成績とは、急性心不全による早世が本当に残念でならない。3位は9点でクロフネとジャングルポケットが並んだ。勝ち星ではクロフネだが、GⅠ成績ではジャングルポケットに軍配が上がったため同点となった。5位は7点でマンハッタンカフェである。


 もちろん、この結果は参考の1つとして見てほしい。アグネスゴールドが1位に輝いたのは、たとえば開催日数の多さなど、日本の競馬形態とブラジルの競馬形態の違いが大いに影響していると思われる。また、レースレベルの違いを問題にする人もいるだろう。つまり、日本の競馬のほうがレベルが高く、ブラジルの競馬のほうがレベルが低いという意見である――筆者はこの手の差別的な競馬観が吐き気を催すほど嫌いだが――。が、これらの違いを考慮して結果を導く術を筆者は思いつかなかった。


 アグネスタキオンやクロフネのファンからは、地方・海外・障害での成績も加味しろというクレームが飛んできそうだ。たしかに、これらを含めれば、順位に何らかの変動が出るだろう。しかし、1つ確かなことがある。もし地方・海外・障害を含めるのなら、アグネスゴールドの海外成績も含めなければ不公平だ。アグネスゴールドはブラジルでの15勝に加えて、アルゼンチンでの2勝、ウルグアイでの2勝、アメリカでの1勝、バルバドスでの1勝と、合計でGⅠ競走を21勝もしている。GⅠに関しては、どうあがいてもアグネスゴールドには敵わない。


 さて、アグネスゴールドは最強の DNA の持ち主となったわけだが、しょせんは「最強世代で最強の遺伝子」という条件付きにすぎない。真に最強の遺伝子の持ち主となりたいなら、あの馬と戦わなければならない。ディープインパクトである。そこで、「アグネスゴールド VS ディープインパクト、サンデーサイレンス系最強の種牡馬はどちらか?」も検証してみる。


 ディープインパクト産駒はこれまで18,465回出走して2,384勝、うちGⅠは59勝し、39頭のGⅠ馬を輩出した。JRAのみの成績でこれである。地方・海外・障害も含めたら、顎が外れるほど驚くべき数字になる。当然、アグネスゴールドが単純な数字比べで勝てるはずがない。では、割合で見たらどうだろうか?



ディープインパクト

勝率:12.91%(2384勝÷18,465回)

GⅠ率:2.47%(59勝÷2,384勝)

勝ち上がり率:62.92%(940頭÷1,494頭)

GⅠ馬率:4.15%(39頭÷940頭)



「アグネスゴールド、お前がナンバー1だ!」


■ 一覧表


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木下 昂也(Koya Kinoshita)

Twitter : @koyakinoshita24

G-mail : kinoshita.koya1024@gmail.com

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