• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

「アグネスゴールドはブラジル競馬史上最高の種牡馬の1頭である」


亡くなる2週間前のアグネスゴールド
写真:Luiz Esteves (@lestevestreinador) https://www.instagram.com/p/CTqF1CkpSAQ/

アグネスゴールド死去


 現地時間9月27日の朝、ブラジルのファゼンダ・モンデシール牧場で繋養されていたアグネスゴールド(Agnes Gold)が亡くなった。23歳だった。ブラジル・スタッドブックブラジル・ジョッキークラブサンパウロ・ジョッキークラブなどが報じた。


 同牧場のパウロ・ベルガモ獣医師によると、アグネスゴールドは右上腕骨を骨折し、予後不良と診断されて安楽死となった。今月半ばにルイス・エステヴェス調教師が自身の Instagram に載せた写真(上記)では元気そうな姿だっただけに、驚きである。


「私は2015年からファゼンダ・モンデシールでアグネスゴールドと共に過ごす機会を得た。特徴的な性格と気質を持った馬だった。子供たちが1着でゴール板を駆け抜けることで、アグネスゴールドの思い出や存在は受け継がれていくだろう」と、ベルガモ獣医師は述べた。


 ブラジル・スタッドブックはアグネスゴールドの前に「並外れた(excepcional)」という形容詞をつけて今回の死を述べた。「我々は並外れた種牡馬であるアグネスゴールドを失った。このサンデーサイレンスの息子は信じられないほどの結果を残した。ブラジルのサラブレッド生産に残した遺産はあまりにも大きい」


 ブラジル・ジョッキークラブの報道では "super garanhão Agnes Gold"、つまり「スーパー種牡馬アグネスゴールド」と表現された。サンパウロ・ジョッキークラブは「センセーショナルな種牡馬アグネスゴールド(reprodutor sensação Agnes Gold)」と紹介した。また、競馬情報サイト『ハイア・レヴィ(Raia Leve)』でも「並外れた(excepcional)」という形容詞と共に死が伝えられた。南米におけるアグネスゴールドの偉大さは、ヨーロッパのガリレオ、北米のタピットに匹敵するだろう。


 アグネスゴールドを種牡馬として重宝し、2冠牝馬マイスキボニータやGⅠ2勝馬オルフェネグロを生産・所有したエテルナメンチ・ヒオ牧場から、筆者は次のようなコメントをいただいた。「アグネスゴールドは優れた素質を持った種牡馬だった。マイスキボニータ、オルフェネグロ、オンラインなど、彼の子供たちは我々に数えきれないほどの喜びを与えてくれた。我が国に導入された中で最高の種牡馬の1頭である」



種牡馬成績


 アグネスゴールドは父サンデーサイレンス、母エリザベスローズ、その父ノーザンテーストという血統。日本の社台ファームで産まれた。現役引退後は日本とアメリカで種牡馬となったが成功できなかった。2009年にブラジルを拠点とするスウェーデン人のステファン・フリボルグ氏に購入され、ブラジルのエストレーラ・エネルジーア牧場で繋養されることになった。2015年に同牧場が解散すると、ヒオ・ドイス・イルマノス牧場、ヘジーナ牧場、エテルナメンチ・ヒオ牧場が共同で保有した。感染症による生殖能力喪失のため、2019年の種付けシーズンをもって種牡馬を引退。2020年と2021年は種付けを行なわず、ファゼンダ・モンデシール牧場で余生を送っていた。


 2021年9月28日の時点で、アグネスゴールドはブラジルで609勝、アルゼンチンで30勝、ウルグアイで51勝をあげている。南米通算では690勝になる。


 2019/20シーズンには130勝をあげて初のブラジル・リーディングに輝いた。2020/21シーズンも130勝をあげて種牡馬リーディングのトップに君臨すると、ブラジル版JRA賞にあたるモッソロー賞の最優秀種牡馬に選出された。


 690勝のうち、重賞は74勝(ブラジル66勝、アルゼンチン3勝、ウルグアイ5勝)、GⅠは22勝(ブラジル18勝、アルゼンチン2勝、ウルグアイ2勝)である。ブラジルのダービーに相当するGⅠクルゼイロ・ド・スルを2勝している。


 GⅠに関しては、イバールが勝ったアメリカのGⅠシャドウェル・ターフ・マイルと、アイアムソーグルーヴィーが勝ったバルバドスのGⅠサンディー・レーン・スパ・スプリント・ステークス・アンド・トロフィーを含めることができる。アグネスゴールドはアメリカ、アルゼンチン、ウルグアイ、バルバドス、ブラジルと5ヶ国でGⅠ馬を輩出した。


 受賞歴のある産駒も多数いる。2012/13シーズンのブラジル最優秀3歳牝馬に選出されたアビジャン、2015/16シーズンのブラジル最優秀4歳以上牝馬に選出されたエネルジーアガローア、2017/18シーズンのブラジル最優秀3歳牝馬に選出されたサイレンスイズゴールド、2020/21シーズンの年度代表馬と最優秀3歳牝馬に選出されたジャネールモネイ、最優秀マイラーに選出されたオリンピクジョンスノー、最優秀長距離馬に選出されたヒーズゴールドに加え、2019年のアルゼンチン最優秀2歳牡馬にイバールが、2020年のウルグアイ年度代表牝馬にオンラレアルが選出された。

 

【GⅠ馬 ※赤は牝馬、青は牡馬】

・アイアムソーグルーヴィー(Iamsogroovy)

・アビジャン(Abidjan)

・アブダビ(Abu Dhabi)

・アントネッラベイビー(Antonella Baby)

・イバール(Ivar)

・エネルジアフリビー(Energia Fribby)

・オリンピッククレムリン(Olympic Kremlin)

・オリンピックジョンスノー(Olympic Jhonsnow)

・オリンピックラスパルマス(Olympic Las Palmas)

・オルフェネグロ(Orfeu Negro)

・オンラレアル(Honra Real)

・クーロエカミーチャ(Culo E Camicia)

・サイレンスイズゴールド(Silence Is Gold)

・ジャネールモネイ(Janelle Monae)

・ナタン(Nathan)

・ヘウェア(Hevea)

・マイスキボニータ(Mais Que Bonita)



アグネスゴールド産駒の南米重賞勝ち一覧は コチラ



■ アグネスゴールド種牡馬成績

アグネスゴールドの種牡馬成績(南米)


アグネスゴールドの未来


 現2歳である2019年産馬が66頭、最終世代となる2020年産馬が42頭いる。この中から新たなGⅠ馬が誕生することは間違いない。なお、2020年11月12日にフィゲイラ・ド・ラゴ牧場で産まれたロイヤルベイビー(Royal Baby)が、史上最後のアグネスゴールド産駒になる。


 海外に飛び出したアグネスゴールドも多数いる。2021年に無敗でブラジル(カリオカ)牝馬3冠を達成したジャネールモネイは、今年6月にアメリカのチャド・ブラウン厩舎に移籍した。アメリカ・デビューはおそらく来年になるだろう。


 アルゼンチンGⅠを2勝した後、アメリカのパウロ・ロボ調教師の下に移籍してGⅠを勝ったイバールは、10月9日のGⅠキーンランド・ターフ・マイルに連覇を目指して出走し、11月のBCマイルを目標にしている。昨年4着に敗れたリベンジを狙う。


 リオ・デ・ジャネイロのガヴェア競馬場で行なわれた2歳GⅠジョッキークルブ・ブラジレイロを優勝し、サンパウロのシダーヂ・ジャルディン競馬場で行なわれた3歳GⅠイピランガも圧勝したオルフェネグロ(Orfeu Negro)は、つい先日アメリカへの売却が発表された。ブラジル時代の走りができれば、アメリカでも活躍できる。


 もう1頭、アメリカにいるアグネスゴールド産駒で期待できるのが、インラヴ(In Love)である。イバールと同じくアルゼンチンからアメリカのパウロ・ロボ厩舎に移籍し、9月8日にケンタッキー・ダウンズ競馬場で行なわれたリステッド競走TVG2Sを優勝した。


 もし日本の競馬ファンがアグネスゴールド産駒を見たいと思ったら、香港に行くといいだろう。今年の3歳GⅠフランシスコ・エドゥアルド・ヂ・パウラ・マシャードを優勝したクーロエカミーチャと、GⅠ好走歴のあるオリンピックコルチノイが香港に移籍した。アグネスゴールド産駒6ヶ国目のGⅠウィナーは香港で誕生しそうだ。


 アグネスゴールドの後継種牡馬はいるのか?


 残念ながら、望みは極めて薄い。理由は主に2つある。


 1つは、ブラジルで内国産の種牡馬が活躍するのは難しいということ。昨年の種牡馬リーディングでTOP10に入った内国産種牡馬は7位のレダットーレ(Redattore)のみである。11位にグローリアヂカンペアン(Glória de Campeão)が入った。つまり、この2頭クラスの名馬でなければ、種牡馬として活躍するのは非常に難しい。近年も海外から優秀な種牡馬を輸入しており、内国産種牡馬の付け入る隙はなさそうだ。


 2つは、優秀な競走馬は海外に売却されること。引退後に種牡馬としてブラジルに買い戻されることはほとんどない。上記のGⅠ馬のうち、すでにオルフェネグロとクーロエカミーチャがブラジルで種牡馬入りする可能性がほぼなくなった。かといって、外国で種牡馬入りするのも至難の業である。少なくともGⅠを勝たなければならないが、簡単な話ではない。


 アグネスゴールドの後継となれる可能性を持った馬は、アメリカGⅠの勝ち馬であり、所有者がブラジル時代から変わっていないイバールしかいない。だが、イバールは現役馬であり、どこで種牡馬入りするのか、そもそも種牡馬になれるのかなどは何も決まっていない。現状、アグネスゴールドの後継種牡馬は1頭もいない。


 現状と書いたのは、これからの産駒に期待できるからである。ディープインパクトがコントレイルを輩出したように、アグネスゴールドも最後の最後に超大物の牡馬を出してくれるかもしれない。


 一方、母系にはアグネスゴールドの名前が確実に残る。南米重賞74勝のうち、半分を超える46勝が牝馬による勝利である。牝馬のアグネスゴールドと言っていい。まだ産駒数は少ないが、母父アグネスゴールドがどれほどの威力を発揮するのか、今から楽しみである。


 日本に見捨てられ、アメリカでも失格の烙印を押され、とうとうブラジルまで流された。しかし、地球の裏側でチャンスをつかみ、国内No.1の座に上りつめ、アメリカのGⅠを勝ち、今や世界中の競馬関係者から注目を浴びる存在となった。アグネスゴールド。彼のように2度の失敗から復活した種牡馬は二度と現れないだろう。



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