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ヴァンドギャルドの種牡馬展望と繋養先であるオールド・フレンズ牧場の紹介

 ヴァンドギャルドがブラジルで種牡馬入りすることが決まった。オールド・フレンズ牧場、エテルナメンチ・ヒオ牧場、ファゼンダ・モンデシール、ヒオ・ドイス・イルマノス牧場といったブラジル有数の生産牧場でシンジケートが組まれ、その中のオールド・フレンズ牧場で繋養される予定である。


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 オールド・フレンズ牧場はブラジル南部ヒオ・グランヂ・ド・スル州バジェーにある生産牧場である。バジェーはパンパと呼ばれる地域に属する。パンパとはアルゼンチン、ウルグアイ、ブラジル南部に広がる大草原地帯の総称であり、馬づくりをするには世界一ふさわしい環境と言っても過言ではない牧草地・放牧地が広がっている。


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 オールド・フレンズ牧場の代表者はジュリオ・カマルゴ氏である。始まりはカマルゴ氏の父親と叔父、2人の友人であるフランコ・クレメンチ・ピント氏とセルジオ・コルテラッツォ氏が作ったスタッド・オールド・フレンズである。馬主としての活動だけでなく、サラブレッド生産にも携わろうと拓いたのがオールド・フレンズ牧場である。したがって、引退馬を扱うアメリカの非営利団体オールド・フレンズとは関係がない。


 カマルゴ氏はサラブレッド生産を始めるにあたり、ロロルー牧場を運営するロドルフォ・リマ氏に相談した。リマ氏はバジェーにある自身の牧場の近くに馬産に適した土地があることを教えた。カマルゴ氏は現地に赴いて地形・土壌・気候などが気に入ったため、現在オールド・フレンズ牧場がある土地を購入した。同氏は牧場の運営面を担当し、馬の管理や育成といった実務は獣医師のエミーリオ・ボルバ氏が担っている。


 オールド・フレンズ牧場は1998年と1999年の2年間、アメリカからスペンドアバック(Spend a Buck)をシャトル種牡馬として導入した。これが当たり、スペンドアバックはアメリカGⅠ3勝のピコセントラル(Pico Central)、2004年のキングジョージで2着と好走したハードバック(Hard Buck)といった名馬を輩出した。


 オールド・フレンズ牧場に関わる馬で世界的に有名なのがファルダアミーガ(Farda Amiga)である。ファルダアミーガは同牧場が2000年にキーンランドのセールで購入した牝馬であり、2002年のGⅠケンタッキー・オークスとGⅠアラバマSを優勝した。同年のBCディスタフではアゼリ(Azeri)の2着だった。


 オールド・フレンズ牧場が生産した馬には他にも、南アフリカで活躍したイーリャダヴィトーリア(Ilha Da Vitória)、GⅠインメンシティーの勝ち馬ヴェリーナイスムーン(Very Nice Moon)、GⅠマジョール・ズッコーの勝ち馬ピッパ(Pippa)、そのピッパを母に持つGⅠ牝馬シェリーヴィ(Cherie Vi)、2016年のデルビー・パウリスタ(サンパウロ・ダービー)の優勝馬ヴェットーリキン(Vettori Kin)、南米王者となってサウジカップでも5着に健闘したアエロトレン(Aero Trem)などがいる。


 日本にもオールド・フレンズ牧場の生産馬がいる。ブラジルGⅡを勝ったベストインタウン(Best In Town)がエスティファームで繁殖牝馬となった。


 現在オールド・フレンズ牧場には2頭の種牡馬がいる。2011年のBCクラシックの勝ち馬ドロッセルマイヤー(Drosselmeyer)と、アメリカのGⅠを2勝したヴェラッツァーノ(Verrazano)である。また、2014年の1年間だけシャンハイボビーがシャトル種牡馬として供用されていた。



 話をヴァンドギャルドに戻す。


 ブラジル・ジョッキークラブから報道によると、ヴァンドギャルドのシンジケートにはエテルナメンチ・ヒオ牧場、ヒオ・ドイス・イルマノス牧場、ファゼンダ・モンデシールなどが加わる。いずれもアグネスゴールドの所有権を持っていたブラジルの有力牧場である。報道の中でも書かれているように、ヴァンドギャルドに求められているのは2021年に亡くなった大種牡馬アグネスゴールドの穴埋めとしての役割である。


 エテルナメンチ・ヒオ牧場はアグネスゴールド産駒の2冠牝馬マイスキボニータ(Mais Que Bonita)を生産・所有した牧場である。その他にも、GⅠ2勝をあげたオルフェネグロ(Orfeu Negro)や牡馬3冠競走の2戦目を勝ったオンライン(Online)を生産した。この2頭もアグネスゴールド産駒である。


 ヒオ・ドイス・イルマノス牧場、通称 RDI に関しては説明不要だろう。アルゼンチンに本拠地を置くオーナーブリーダーで、BCマイルに3年連続で出走したイバール(Ivar)、アメリカGⅠ馬インラヴ(In Love)など、アグネスゴールドを使って数々の活躍馬を輩出した。アグネスゴールドを種牡馬として覚醒させた牧場である。


 ヴァンドギャルドはこれら有力牧場からのバックアップを受けることができる。多くの種付け機会に恵まれるだろうし、有力な牝馬も割り当てられるだろう。また、ブラジルの競馬は芝コースがメイントラックであること、アグネスゴールドやハットトリックが大成功をおさめた土壌があること、ソールオリエンスの半弟という良血馬であることなどを見ても、ヴァンドギャルドが種牡馬として成功できる要素はそろっている。


 また、産駒の出走機会はブラジルだけではない。オールド・フレンズ牧場の生産馬はウルグアイで頻繁に走っているし、RDIの馬の大半はアルゼンチンで競走生活を送る。アルゼンチンでは今年からサトノフラッグがバカシオン牧場で、アグネスゴールド産駒のイバールがカランパンゲ牧場で種牡馬入りする。この2頭との産駒対決が見られるのも面白い。もしかしたら、GⅠでヴァンドギャルド産駒とサトノフラッグ産駒のワンツー決着というシーンがあるかもしれない。



 しかし、プラス面ばかりでもない。ヴァンドギャルドには乗り越えなければならない壁がある。


 ブラジルのサラブレッド生産は転換期を迎えている。ワイルドイヴェント、プットイットバック、ヴェットーリ、パイオニアリング、レダットーレ、アグネスゴールド、ハットトリックなど、長らく生産界を支えてきた種牡馬がここ数年で立て続けに亡くなった。


 亡くなった種牡馬の穴埋めとして、新しい種牡馬が続々と導入されている。2018年にはGⅠフォアゴーSの勝ち馬エムシー(Emcee)が、2019年にはGⅠトラヴァーズSの勝ち馬アルファ(Alpha)、イントゥミスチーフ産駒のキャンザマン(Can The Man)、アメリカ重賞4勝のキャメロットキトゥン(Camelot Kitten)が、2021年にはBCジュヴェナイル・ターフの勝ち馬アウトストリップ(Outstrip)と南米大陸初のキングマン種牡馬となったサンガリアス(Sangarius)がブラジルに渡った。エムシーは初年度産駒からGⅠ馬ラーラーラー(Lah Lah Lah)を輩出し、キャンザマンとキャメロットキトゥンからもすでに重賞馬が誕生している。


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 ヴァンドギャルドの行き先であるオールド・フレンズ牧場にいるドロッセルマイヤーも、16歳と高齢になったが健在である。昨シーズンは種牡馬リーディングで2位、今シーズンは3位につけている。ドロッセルマイヤーより上にいるのはアグネスゴールドとハットトリックであり、この2頭が亡くなった今はドロッセルマイヤーが稼働している種牡馬の中でNo.1と言える。また、アグネスゴールドが亡くなったことで、これまでアグネスゴールドと交配していた優秀な牝馬の種付け相手がドロッセルマイヤーに移った。


 ヴァンドギャルドのシンジケートに加わった牧場は、上述した種牡馬のシンジケートにも参加している。したがって、ヴァンドギャルドの他にも選択肢を持っているということである。種牡馬争いというのはどの国でも熾烈なもので、もしヴァンドギャルドが最初の2,3年で結果を出せなければ、優先順位はどんどん下がっていくだろう。アグネスゴールドがここまで大成功をおさめられた理由としても、初年度からGⅠ馬を輩出して生産者の信頼を得られたことが大きい。ヴァンドギャルドも出だしが肝心である。


 加えて、ヴァンドギャルドはアグネスゴールド牝馬やハットトリック牝馬と種付けしづらいという不利もある。南米の生産者たちは濃いインブリードに対してあまり抵抗を持っていない印象を受けるが(現に父ハットトリック×母父アグネスゴールドという馬もいる)、かといって強烈なクロスを好んでいるという印象も受けない。サンデーサイレンスの3×3にチャレンジする生産者がどれだけいるかというのも気になる点である。



 ブラジル・ジョッキークラブの記事内でも書かれたように、そして多くの日本人ファンが望んでいるように、ヴァンドギャルドにアグネスゴールドの後継者としての役割を期待する人は多いだろう。


 しかし、はっきり言ってしまうと、ヴァンドギャルドだろうと誰だろとアグネスゴールドと同じ活躍をするのはほとんど不可能である。アグネスゴールドが成し遂げたのは、世界10ヶ国以上で勝ち馬を輩出し、南米大陸で重賞を100勝以上し、アメリカのGⅠを勝ち、2位にダブルスコアをつけるほど種牡馬リーディングを独走し、ダービーを連覇し、オークスを5年で4勝し、1000mから2400mまで、良馬場から重馬場までこなせる馬を産んだことである。ヨーロッパにおけるガリレオ、アメリカにおけるタピットに匹敵するほどの業績であり、そんな種牡馬は簡単に現れるはずがない。


 だが、アグネスゴールドと比較するのは酷だとしても、ヴァンドギャルドが種牡馬として成功できる要素はたくさんそろっている。誰とも比較することなく、比較されることもなく、ヴァンドギャルドはヴァンドギャルドとして活躍すればいいのである。


 そして何よりも重要なのは、世界有数の大草原地帯に建てられた立派な生産牧場で必要とされている、つまり、安心して第2の馬生を過ごせる場所に恵まれたということである。自分が求められた場所で最期のときまで健康で無事に暮らせれば、それだけで大成功である。


■ 繋養先として予定されているオールド・フレンズ牧場の様子



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木下 昂也(Koya Kinoshita)

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【Mail】 kinoshita.koya1024@gmail.com

【HP】 https://www.keiba-latinamerica.com/

Koya Kinoshita

スペイン語通訳

スペイン競馬と中南米競馬を隅々まで紹介&徹底解説する『南米競馬情報局』の運営者です。

全国通訳案内士というスペイン語の国家資格を所持しています。

東京在住のインドア派。モスバーガーとミスタードーナツが好きです。

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