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ヒラボクディープ、種牡馬生活のスタートで大きく躓く

 1年も半分が過ぎ、南米競馬の2歳戦(2020年産)が終了した。


 チリのマトリアルカ牧場で種牡馬として供用されている日本のヒラボクディープは、2020年産馬がチリでの初年度産駒にあたる。初年度産駒は15頭登録されており、そのうち9頭がデビューした。


 記念すべきチリ・ヒラボクディープ産駒の初出走は3月17日に起こった。サンティアゴ競馬場17Rでヒラボクディープ産駒のエンガヌ(Ngannu)がデビューした。これは『ディープインパクトの血を持つ馬が南米大陸で初めて出走した』という歴史的な瞬間でもあった。


 しかし、ヒラボクディープの種牡馬1年目は散々な結果に終わった。ヒラボクディープ産駒は22戦したが、1回も勝つことができなかった。つまり、初年度産駒の2歳戦が未勝利で終わってしまったのである。



 以下、ヒラボクディープ初年度産駒の全競走成績をまとめた。


☆ アズミ(Azumi)

4月6日 6着


☆ ベージャチャルロッテ(BellaCharlotte)

5月12日 4着


☆ デュークデハザード(Duke De Hazard)

5月19日 7着

6月12日 16着

6月25日 6着

6月30日 10着


☆ ミコノ(Mykono)

4月30日 11着

5月5日 12着

5月24日 2着

6月26日 6着


☆ ナガオ(Nagao)

5月11日 11着

5月27日 6着

6月3日 落馬

6月17日 2着

6月29日 3着


☆ エンガヌ(Ngannu)

3月17日 2着

4月14日 3着

4月28日 3着

5月12日 3着

6月12日 4着

6月23日 5着


☆ ザビッグベン(The Big Ben)

6月19日 8着



 チリの新種牡馬、つまり、2020年産馬が初年度産駒である種牡馬には、オーサムペイトリオット(Awesome Patriot)、クラウドコンピューティング(Cloud Computing)、グッドサマリタン(Good Samaritan)、フーテナニー(Hootenanny)、モータウン(Mo Town)、サハラスピリット(Sahara Spirit)がいる。いずれの種牡馬も産駒が白星をあげている。


 ヒラボクディープと同じくマトリアルカ牧場で供用されている新種牡馬ボンバルデーロダディー(Bombardero Daddy)にいたっては、産駒がカリッジ(Courage)の1頭しかいないにもかかわらず、そのカリッジがGⅡを優勝した。


 チリの新種牡馬で唯一、ヒラボクディープだけが勝ち上がり馬を輩出できていない。それどころか、『外国から輸入された種牡馬にもかかわらず初年度2歳未勝利』という不名誉な珍記録を作ってしまった。



 なぜヒラボクディープは種牡馬生活のスタートで躓いてしまったのか。馬自身の能力は置いておき、その他にいくつかの理由が考えられる。


 まず挙げられるのは、産駒数が少ないということである。前述のように、初年度である2020年産馬は15頭しかいない。2021年産馬となると9頭まで減る。この少ない分母から活躍馬を出すのは確率的に難しい。


 また、ヒラボクディープの繋養先であるマトリアルカ牧場は、グッドサマリタンをエース種牡馬として起用している。ヒラボクディープに回ってくる牝馬には限りがある。


 2つ目の理由は、チリの種牡馬事情を見れば分かる。現在チリで種牡馬リーディングの上位を占めるのは、ルッキンアットラッキーであり、コンスティテューションであり、プラクティカルジョークであり、そしてシーキングザダイヤである。この面々が活躍していることを考えれば、青葉賞と丹頂Sを勝ったディープインパクト産駒に向いている競馬だとは言いづらい。



 3つ目の理由は、ヒラボクディープはとある人物の野心に利用されたということである。


 名前は伏せるが、ヒラボクディープをチリに導入したのはS氏というチリ人の仲介者(エージェント)がいる。S氏は日本市場に異様なまでの執着を持っている。というのも、日本市場はドル箱からである。日本の生産者は南米の馬を高値で買ってくれるため、エージェントにも仲介料がたくさん入る。


 S氏がヒラボクディープを導入したのは、自分が日本市場と強いパイプを持っていることを南米内外にアピールするためである。彼はヒラボクディープがチリで成功するとは思っていないし、チリで成功させようとも考えていない。『南米大陸初のディープインパクト種牡馬を導入したエージェント』という肩書が欲しかったのである。


 その証拠に、ヒラボクディープを導入したわずか1年後、S氏は南アフリカからムスタキーム(Mustaaqeem)というGⅠ馬を種牡馬としてチリに連れてきた。以来、S氏はヒラボクディープにはまったく触れず、ムスタキームの宣伝ばかりしている。


 日本人にとって南米の馬が未知の存在であるように、南米人にとって日本の馬は未知の存在である(イクイノックスのような大スターを除けば)。ヒラボクディープというよく分からない種牡馬に種付けを申しこむ生産者はいないだろう。導入した人物からの後押しがなければ、種付け数も産駒数も伸びない。


 ヒラボクディープの現在の種付け料は2,500ドルである。しかし、初年度産駒の散々な成績を考えれば、この値段は高すぎる。大幅な値下げをしないかぎり、産駒数は今後もどんどん減っていき、それに応じて種牡馬生活もどんどん苦しくなっていくだろう。




Koya Kinoshita

スペイン語通訳

スペイン競馬と中南米競馬を隅々まで紹介&徹底解説する『南米競馬情報局』の運営者です。

全国通訳案内士というスペイン語の国家資格を所持しています。

東京在住のインドア派。モスバーガーとミスタードーナツが好きです。

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