• 木下 昂也(Koya Kinoshita)

この南米2歳馬(2019年産馬)に注目しよう!

※ 青字は牡馬、赤字は牝馬

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アルゼンチン


評価:混戦


 アルゼンチンの2019年世代は、GⅢギジェルモ・ケミスGⅡサンティアゴ・ルーロを勝ったエディトリアルコメント(Editorial Comment)が大将格だった。アルゼンチン生産界で大きな期待を集めているイルカンピオーネの産駒で、牝系はエンピリック6-fのEファミリーと血統的にも申し分ない。しかし、アメリカのケニー・マクピーク調教師の下に移籍することが決まり、すでにアルゼンチンを離れた。


 空席となった大将の座についたのは、ルブルース産駒のローソン(Lawson)である。4月に行なわれたGⅡラウール・イ・ラウール・エミーリオ・シュヴァリエを6馬身差で快勝し、デビューから連勝をおさめた。このレースは昨年の2冠馬イルウィン(Irwin)が勝利したレースでもあり、イルウィンのように駆け上がっていける素質の持ち主である。


 5月1日の2歳GⅠを勝ったフォーティファイ産駒のスブサナドール(Subsanador)とフルマスト産駒のタングリトーナ(Tan Gritona)にも触れないわけにはいかない。しかし、この時期の2歳GⅠはGⅠという格が付けられているだけの普通の2歳戦にすぎず、実力の証明にはつながらない。むしろ、この2頭はここがピークという印象を受ける。


 現時点ではローソン以外に抜けた存在はおらず、アルゼンチン現2歳世代は大混戦と言っていいだろう。6月末に行なわれるジュヴェナイルとジュヴェナイル・フィリーズの結果次第で勢力図はガラっと変わるだろうし、3冠競走に向けてはこれからデビューする馬に期待しても良さそうだ。


 こうも混戦になった理由の1つに一発屋の存在がある。つまり、未勝利戦や重賞を大差勝ちして注目を集めた馬が、次走でまったく走らないというパターンが多く見られる。エルムシカル(El Musical)リアラー(Rihallah)がこれに該当する。


 アグネスゴールド産駒のマヌーカ(Manuca)もそんな馬の1頭である。デビュー戦を10馬身差で勝利。次のGⅠホルヘ・デ・アトゥーチャでは1番人気に推されるも、直線伸びずに10頭立ての6着と惨敗した。だが、個人的にはまだこの馬を諦めていない。デビュー戦の走りは衝撃で、同じ父かつ同じ馬主であるイバール(Ivar)を彷彿とさせる力強い末脚だった。経験を積めばもっと良くなると信じている。



チリ


評価:素質馬多数


 チリは芝とダートで分けて紹介する。まずは芝路線だが、3頭の有力馬がいる。


 1頭目がミッドシップマン産駒のフォルティーノ(Fortino)。先行して抜け出す競馬でも後ろで脚を溜める競馬でも、芝でもダートでも力を発揮できる器用さを武器に、これまで4戦3勝、重賞2勝という成績を残している。2着に敗れたGⅢコテホ・デ・ポトリージョスでも、直線での斜行によって1着入線から2着降着となり、実質無傷の4連勝の内容と見ていい。チリNo.1のドン・アルベルト牧場が大きな期待を抱いてシャトルしたミッドシップマンの秘蔵っ子。GⅠの1つや2つ獲れる能力の持ち主であり、獲らなければならない馬であり。


 フォルティーノに対抗できるのが、シーキングザダイヤ産駒のミエレヒード(Mi Elegido)である。フォルティーノと同じくドン・アルベルト牧場の生産馬だが、所有者はドニャ・ソフィーアである。3月6日のデビュー戦を3馬身差で快勝すると、前走のGⅢアルバロ・コバルビアスでフォルティーノと対決した。結果は、直線での叩き合いの末わずかに1/2アタマ差およばずの2着だったが、3着を7馬身も突き放すマッチレースだった。フォルティーノとの能力差はまったくない。全姉サファウィ(Safawi)、全兄アシエスノマス(Así Es No Más)、全兄サビエンド(Sabiendo)はいずれも重賞馬で、近親にGⅠ3勝のブレークポイント(Breakpoint)がいるという超良血馬。必ず走る。


 3頭目に挙げるのが、イワンデニソーヴィチ産駒のネティンナ(Netinna)である。芝路線の牝馬はこの馬の1強状態。強烈な末脚を武器に、デビューから無傷の3連勝で重賞を2勝した。去年同じく牝馬ながら芝路線を制圧したイナダマス(Y Nada Más)に匹敵する素質の持ち主であり、全兄ヌエボマエストロ(Nuevo Maestro)がGⅠ馬という血統的な裏付けもある。なお、この馬もドン・アルベルト牧場の生産馬である。チリは日本のノーザンファーム以上にドン・アルベルト牧場の独裁状態である。


 ダート路線では強い牝馬が2頭いる。ジョークシシ(Joke Sisi)プラクティカキャット(Práctica Cat)。共にプラクティカルジョーク産駒である。


 ジョークシシはデビューから3戦3勝と無敗を維持しているが、数字以上に内容が素晴らしい。デビュー戦は15 3/4馬身、2戦目のGⅢセレクシオン・デ・ポトランカスは4馬身、前走のリステッド競走は7馬身と快進撃を続けている。主戦のハイメ・メディーナ騎手が性的暴行事件を起こして騎乗停止になるというまさかのアクシデントはあったが、チリのトップジョッキーであるホルヘ・ゴンサーレス騎手を用意できたので問題はない。


 一方のプラクティカキャットもここまで3戦2勝、重賞1勝という成績で、勝利した2戦は9馬身、6 1/4馬身差と圧勝だった。前走のGⅢホセ・サアベドラ・バエサでは圧倒的1番人気に支持され、直線ではまたもや楽勝かと思われたが、ウナチキティータ(Una Chiquitita)のまさかの末脚にハナ差で屈った。だが、能力の高さに疑いはなく、ジョークシシと頂上決戦が今から楽しみである。


 ダート路線の牡馬には供用存在がいない。本来ならカリフォルニアクローム産駒のザベストヴィクトリー(The Best Victory)の1強となっていただろうが、デビュー戦を11 3/4馬身差で圧勝した直後に、生産者・所有者であるスマージャ牧場が早々にアメリカ移籍を決断し、チリを離れた。そのため、牡馬は誰にでもチャンスがある。



ウルグアイ


評価:限りなく1強に近い2強


 ウルグアイは南米主要国の中でもっとも勢力図がはっきりしている。強い2歳馬が2頭いるが、ほとんど1強と言っていい。


 その1強として君臨するのが、ウォーセクレタリー産駒のエスウニコ(Es-Único)である。デビュー戦こそ2着に敗れたが、2戦目で初勝利をあげると、前走のリステッド競走では5馬身差の快勝をおさめただけでなく、芝1300mのウルグアイ・レコードを叩き出した。主戦はジョゼー・ダ・シルヴァ騎手、管理するのはアントニオ・シントラ調教師という陣営は、まさにルメール騎手×矢作厩舎のごとく盤石。近親にGⅠラティーノアメリカーノ2着、GⅠサンパウロ2着のエネルジーアエロス(Energia Eros)がいるという血統背景も申し分ない。ダートをこなせるかどうかが鍵だが、個人的にはGⅠポージャ・デ・ポトリージョス(2000ギニー)はこの馬で決まりと思っている。シントラ調教師はその先にドバイ遠征も考えているらしい。


 エスウニコの対抗馬として挙げられるのが、イエロ産駒のトゥルエノ(Trueno)である。初白星が11 3/4馬身、2勝目が12 3/4馬身と、大逃げのド派手なパフォーマンスで人気の高い馬である。しかし、前走のリステッド競走ではエスウニコにあっさり差し切られて2着となり、実力の違いを見せつけられた。もう少し安定した走りをしないと上は目指せそうにないが、展開がハマったときのホームランは特大。それが武器であり脆さでもある。


 未知の魅力を持っているのが、ハットトリック産駒のラッキートリック(Lucky Trick)である。5月15日にデビューしたばかりの馬だが、2番手からあっさり抜け出して10 1/2馬身差の圧勝をおさめた。ウルグアイNo.1のエクトル・ラソ騎手、ロベルト・ソラーネス調教師という布陣にも期待できる。気がかりなのが馬体重。デビュー戦は544kgもあった。一絞りできればさらに成長できるだろうし、上記2頭を簡単に押しのけてしまうかもしれない。



ペルー


評価:牡牝で1頭ずついるが……


 牡馬の筆頭はミールペナルティー産駒のファイナルコール(Final Call)である。ダート直線1000mのデビュー戦は圧倒的なスピードで10 1/4馬身差の快勝、前走のリステッド競走も5 1/4馬身差で楽々と逃げ切った。気分良く競馬を走らせたら、倒すのはなかなか難しそうだ。


 牝馬ではサウスデール産駒のアレキペニィシマ(Arequipeñísima)が一歩抜けている。多くの有力馬を保有するアリーバ・アレキパの所有馬で、ここまで4戦2勝。2月にデビューしてしばらくは普通の2歳馬という印象だったが、前走のリステッド競走を10 1/4馬身差で逃げ切り、キラリと光るものを感じた。


 しかし、牡馬も牝馬もまだまだ様子見が必要である。上記2頭が勝ったリステッド競走のレースレベルはお世辞にも高いとは言えない。昨年のペルー4冠競走はすべてアルゼンチン産馬がさらっていったことを考えると、今年もアルゼンチン産馬の動向をチェックしないわけにはいかない。また、ジェットセットの所有でスアレス・ビジャロエル調教師の管理という、ペルーの黄金タッグの馬たちも無視するわけにはいかない。


 まだデビューしていないが、アルゼンチンNo.1のフィルマメント牧場の生産でスーパーセイヴァー産駒のレイナエストレジータ(Reina Estrellita)に注目している。半姉のレイナデモジェンド(Reina De Mollendo)はGⅠパンプローナの勝ち馬であり、全兄のスーペルナオ(Súper Nao)は昨年ペルー3冠を達成した。4月初旬から調教を積んでおり、間もなくデビューするだろう。同じくフィルマメント牧場が生産したスーペルマヌエル(Súper Manuel)スーペルエリータス(Súper Eliitas)という2頭の良血馬も忘れてはならない。



ブラジル


評価:素質馬の台頭に期待


 5月13日にサンパウロで2歳GⅠが行なわれたため、その勝ち馬に目を向けないわけにはいかない。無傷の3連勝でGⅠジョアン・セシーリオ・フェハスを勝ったハットトリック産駒のプンタドイグアス(Punta Do Iguassu)と、GⅠジュリアーノ・マルチンスを勝ったフィクサドール産駒のプレードイグアス(Play Do Iguassu)である。現時点ではこの2頭が世代の主役となっている。


 しかし、これはあくまで個人的な見解だが、メンバー構成と将来性に疑問を感じた。サンパウロの2歳GⅠの勝ち馬は、アルゼンチンの2歳GⅠの勝ち馬と同じく長続きしない印象がある。3歳戦で活躍する、もしくは将来大きいGⅠを勝つということを考えるなら、サンパウロの馬よりリオデジャネイロの馬を狙いたい。


 たとえば、2戦2勝でGⅢルイス・フェルナンド・シルニ・リマを勝ったドロッセルマイヤー産駒のリトルビューティー(Little Beauty)は高い素質の持ち主と見る。GⅢでは2着とわずかに3/4馬身差だったが、3着は12馬身も後方だった。


 血統から狙うのであれば、エテルナメンチ・ヒオ牧場が生産したプリマヴェーラガウーシャ(Primavera Gaúcha)は外せない。父はアグネスゴールド、母はヴァレヴュー。つまり、全兄にGⅠを2勝して香港に移籍したオルフェネグロ(Orfeu Negro)、近親にブラジル3冠馬バルアバリ(Bal A Bali)がいる。デビュー戦は2着に敗れたが、2戦目では3番手から抜け出して2 3/4馬身差で勝ち上がった。


 頑張ってほしいという願望込みでもっとも推している馬が、ケンタッキアン産駒のラトスカーナ(La Toscana)である。母のアントネッラベイビーはGⅠ馬という血統馬。4月12日のデビュー戦では、道中引っかかりながらも3 1/2馬身差の逃げ切り勝ちをおさめた。主戦はこのまま女性騎手のヴィクトリア・モタ騎手で行くはずで、ヴィッキーが上手くコントロールできれば良いところまで行けそうだ。


 3冠競走や3歳戦線とは無関係になりそうだが、どうしても紹介したい馬がもう1頭いる。それがアグネスゴールド産駒のロンドンムーン(London Moon)である。デビュー戦の芝1000mを6 1/4馬身差で快勝すると、2戦目の芝直線1000mでも豪快な追い込みを決めた。距離が伸びても充分に戦えるだろうが、アグネスゴールド産駒のスプリンターはこれまでいなかったので、このまま短距離路線で活躍し、種牡馬アグネスゴールドの柔軟性をアピールしてほしい。



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木下 昂也(Koya Kinoshita)

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